自由法曹団 東京支部
 
 
トップページ 支部の意見書・声明 2025年

団支部の活動紹介

国及び厚生労働省に対し、生活保護費の減額処分を取り消した最高裁判決に従い、
全面的な補償措置をすみやかに実施することを求める決議

 2025年6月27日、最高裁第三小法廷は5名の裁判官が全員一致して2013年から2015年にかけておこなわれた史上最大の生活扶助基準の引下げの当否が問われた全国訴訟(「いのちのとりで裁判」)において、引き下げの理由とされた「デフレ調整」について、専門的知見との整合性を欠くものであり、厚生労働大臣の判断の過程及び手続きに過誤、欠落があるとして、引下げが違法であると断じる画期的判断を下した。
 2025年11月7日、高市首相が衆議院予算委員会で、生活保護基準引き下げについて、政府のトップとして初めて公式に謝罪した。
 しかし、同年11月21日、国(厚労省)は違法とされた減額分を受給対象者全員に追加給付するのではなく、に、@最高裁判決で違法とされた「デフレ調整(−4.78%)」に代え、低所得者(下位10%)の消費実態との比較による新たな高さ(水準)調整を2013年当時に時を遡らせて「−2.49%」行い、A原告についてのみ「特別給付金」として@による減額分を追加給付するという「対応策」を発表した。
 不利益措置を遡及して適用することは、一般法理としての不遡及原則に反するものであり、本来であれば、厚生労働省(以下「厚労省」という。)はこの判決に従い、本件改定の影響を受けるすべての生活保護利用者に対して、全面的な補償をすみやかに行わなければならない。厚労省の「対応策」は、行政が司法の判断に従おうとせず、これを矮小化する態度を如実に示すものである。
 また、公表された厚労省の「対応策」には以下のような重大な問題がある。
(1) 原告らの具体的給付請求権に対する不当な侵害であること
 最高裁が本件改定にもとづく原告らに対する処分を取り消した以上、原告らの保護費の額は処分前の状態に戻っているのであるから、原告らには本件改定前基準との差額を請求する具体的な給付請求権が発生している。それにもかかわらず、本件「対応策」は、ゆがみ調整を再実施するとともに、新たな減額調整を実施するものであるから、原告らの給付請求権を事後的に変更する不利益処分にほかならず、原告らの権利に対する不当な侵害である。
(2) 行政府が司法判断をないがしろにするものであること
 最高裁判決において、「デフレ調整」は違法であったと明確に指摘されている。また、本件「対応策」で「デフレ調整」に代わるものと位置付けられている「新たな減額調整」の論拠である低所得者の消費水準との比較についても、すでに訴訟において国側が主張していたものである。
 最高裁が判決において国側のこの主張を採用しなかったにもかかわらず、判決後にあらためて「新たな減額調整」を実施することは、行政府が司法判断に従わず、これをないがしろにするものである。
(3) 紛争の一回的解決の要請に反するものであること
 訴訟で現に主張し又は主張しえた理由に基づいて、訴訟が終結したのちにあらためて再処分を実施することは、これまでの訴訟の成果を無に帰するものであって、紛争の一回的解決の要請に反し許されない。「新たな減額調整」は、まさにこれに該当する。
 扶助基準を切り下げる大臣告示は全ての生活保護利用者に適用されていたものであり、最高裁はその大臣告示自体を違法と判断したのである。本件訴訟は代表訴訟的意味合いをもつのであって、大臣告示を違法と判断した最高裁の論理は、原告以外の生活保護利用者にも同様に妥当するものである。引下げから10年以上が経過する中、このままでは、原告らを含む生活保護利用者は差額の支払いを求めて新たな訴訟を提起するほかなくなってしまう。
(4) 原告らに対してのみ「特別給付」を行うことは不平等であること
 生活保護費の大幅引き下げはすべての生活保護利用者に大きな打撃を与えた。原告らはすべての生活保護利用者の実質的な代表として一連の訴訟を闘ってきたものである。訴訟に参加していたか否かによって補償内容に差を設けることは、生活保護法2条が定める無差別平等の原則に明らかに抵触する。
 かかる厚労省の対応は、長年にわたり尊厳を踏みにじった生活保護利用者に対する冒とくである。
 自由法曹団東京支部は、違法を断罪した最高裁の判断から目を背け、著しく不当な対応に終始する厚労省の態度に強く抗議する。高市政権に対し、改めて、@国ないし厚生労働大臣からの心からの謝罪と、A差額分保護費の追支給など、被害の全面的な回復に向けた対策を直ちに講ずることを求める。

以上

2026年2月21日
自由法曹団東京支部 第54回総会
 
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