自由法曹団 東京支部
 
 
トップページ 支部の意見書・声明 2025年

団支部の活動紹介

労働者の心身の健康及びワークライフバランスを守るために
労働時間の規制を緩和する方針に反対する決議

1 高市首相による労働時間の規制緩和にむけた動き
 自民党総裁選の公約に「労働時間規制につき、心身の健康維持と従業者の選択を前提に緩和します。」と掲げていた高市首相は、2025年10月4日、自民党総裁に選出され、同日に開催された自民党の両院議員総会にて、「もう全員に働いていただきます。馬車馬のように働いていただきます。私自身も『ワークライフバランス』という言葉を捨てます。働いて、働いて、働いて、働いて、働いてまいります。」と発言した。かかる発言は、日本で長い間社会問題となっている長時間労働、それに起因する過労死・過労自死の実態を何ら顧みないものであった。当然、多くの労働組合や過労死遺族から批判の声があがった。長時間労働が女性の社会進出の障壁となり、性別役割分業意識の強化にもつながってきた一方で、日本の憲政史上初の女性首相である高市首相がこのような発言をしたことは、政治分野における保守的な思想の根強さの現れであろう。
 高市首相自身は、当該発言について、単に自分自身の決意を述べたものに留まり、労働者に対して長時間労働を求める趣旨ではない旨弁明していたが、その後も、同月21日に首相に就任すると、全閣僚向けの指示書の中で厚生労働大臣らに対して「心身の健康維持と従業者の選択を前提とした労働時間規制の緩和の検討を行う」よう指示したとのことである。また、高市首相が、現行の労働時間規制について、2025年11月5日の衆議院本会議において「残業代が減り、生活費を稼ぐために無理して副業することで健康を損ねる方が出るのを心配してる」、同月12日の参議院予算委員会において「企業が過剰に反応し、本来ならもう少し働けるのにずいぶん乖離がある現状もある」などとも答弁し、更に2026年2月8日に行われた衆議院の解散選挙後の同年2月20日の施政方針演説の中で、「働き方改革の総点検においてお聞きした働く方々のお声を踏まえ、裁量労働制の見直し、副業・兼業に当たっての健康確保措置の導入、テレワークなどの柔軟な働き方の拡大に向けた検討を進めます。」と述べ、成長戦略の文脈で、裁量労働制の見直しに意欲を示した。労働時間の規制緩和に意欲的な姿勢を示していること、そして裁量労働制の見直しに具体的に言及していることからすれば、高市首相が労働時間の規制緩和を押し進めようとしていることは明らかである。

2 労働時間の規制緩和のニーズは労働者にはなく、かえって労働時間の規制強化が求められること
 労働基準法は労働時間について、原則として1日8時間・週40時間の上限を定め、例外的に36協定の締結や臨時的な特別の事情のあることを条件に年720時間、休日労働を含めれば年960時間まで上限を延長することを可能としている。
 このように、現状の労働時間規制がいわゆる過労死ラインの残業を許容するもので、過労死等の防止には全く実効性がないことから、自由法曹団東京支部は既にかかる労働時間規制に反対する決議をしており(「『働き方改革』一括法による改悪等に反対して労働者保護の強化と職場のハラスメント防止法の早期制定を求める決議」2019年2月23日 自由法曹団東京支部第47回定期総会)、現状においても、かかる労働時間規制が肯定されるべき事情はなく、労働時間規制を緩和する必要性は全くもってない状況であり、むしろ、労働時間規制の強化こそが社会的に強く求められている。
 したがって、高市首相が打ち出している労働時間規制の緩和の方針(「働きたい改革」)は、明らかに社会的な実情、要請に反したものであり、到底容認できるものではない。
 厚労省所管の労働政策審議会労働条件分科会の中で使用者側委員は「現行の働き方改革は、より働きたい、より稼ぎたい、成長したい、仕事の完成度を高めたいという労働者のニーズを抑制しているという指摘」がある旨発言しているが、全労連が行ったアンケート調査の結果 からは、上記発言にあるようなニーズが多いという事実は確認できず、むしろ労働者の多くが労働時間を減らしたいと考えていることが明らかになっている。
 このような実情からしても、やはり求められているのは労働時間規制の強化であり、労働時間規制の緩和ではない。高市首相は裁量労働制の見直しにも言及しているが、これは労働者の声に耳を傾けた施策とは到底言えない。そして、裁量労働制は割増賃金(残業代)を抑制する効果があるのみで、労働者の長時間労働を防ぐことができるものではない。

3 結語
 厚労省は2026年の通常国会を想定していた労働基準法「改正」案の提出を先送りにしたが(2025年12月25日時事通信)、総選挙で大勝し安定政権を築いた高市政権が、早晩、労働者の要求に逆行する「改正」法の成立を狙って動き出すことは確実であろう。自由法曹団東京支部は、日本政府に対し、労働者が置かれている状況に真摯に向き合い、労働者の心身の健康やワークライフバランスを守ることのできる労働時間規制の整備を行うよう求め、その実現に向けて奮闘する。労働者の要求に逆行する厚労省の労基法「改正」案の提出に反対し、労働者の権利・利益を守るための取り組みに全力を尽くす。

以上

2026年2月21日
自由法曹団東京支部 第54回総会

1全労連「働く時間は増やしたくない!働く時間に関して本音を語る緊急アンケート(本音アンケート) 報告書」(2026年1月14日)

 
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