高市政権の改憲と「戦争する」国づくりに反対し、憲法と国際法の遵守を求めるとともに、市民の要求の実現を求める決議
1 2026年2月衆議院議員総選挙
本年2月の衆議院議員総選挙において、自民党は単独の政党としては戦後初めて、衆議院の3分の2を超える316議席を獲得した(日本維新の会も加えた与党全体で352議席)。選挙結果を受け、高市首相は「国民の皆様からの信任を頂いた」と述べ、安保3文書改定の前倒し、「スパイ防止」法による国家情報局の設置、そして憲法「改正」に前のめりの姿勢を露わにしている。
しかし、今回の自民党の大勝は、@首相と統一教会との関係や円安・物価高への無策等を通常国会で追及される前に解散を強行し、A「高市早苗が総理でよいかを問う選挙」「日本列島を強く豊かに」等のスローガンにより抽象的な積極的イメージを先行させる一方、B党首討論の場での政策論争を回避し、C選挙前には消極的であった消費税減税につき選挙に入るや「検討を加速」する等と述べて争点を解消し、D何よりも36%の得票で67%の議席を占有する小選挙区制の効果に支えられて実現したものであり、民意が十分に反映されたものではない。
2 高市政権の抱える重要課題及び要求
私たち自由法曹団東京支部は、特に以下の重要課題につき、高市政権に要求し、かつその実現のために全力を尽くす。
(1)トランプ政権の暴走と一線を画し、国連憲章と国際法の原則を尊重すること
米トランプ政権によるイスラエルによるガザ虐殺への容認と加担、ベネズエラ侵攻、デンマーク自治領グリーンランドの領有宣言、国連安保理が設置した「平和協議会」を米国主導の国際秩序作りの組織に変質させる策動は、国連憲章と国際法を無視し、2つの大戦の教訓に基づく集団的安全保障の理念を否定する暴走であり、重大な誤りである。
米国による他国の主権侵害に異議を唱えられない政権は、ロシアのウクライナ侵略や、中国の東南アジアにおける大国主義、台湾における自由の抑圧を批判する根拠をも失う。私たちは、高市政権がトランプ政権の暴走(「力による平和」路線)に追従することなく、これと一線を画すること、米国であれロシアであれ中国であれ、いかなる大国の横暴にも反対し、国連憲章と国際法を遵守する姿勢を鮮明にすることを求める。
トランプ政権は同盟各国に軍事費のGDP5%への増額を要求している。これは日本においては現在の軍事費11兆円を30兆円にすることを意味する。国家財政と国民生活を破綻に導き、東アジアにおける軍事的緊張をさらに高めるこの要求を、断固として拒否するよう求める。
(2)台湾有事「存立危機事態」発言を撤回し、中国政府との緊張緩和を
高市政権は、台湾有事は自衛隊の武力行使を可能とする「存立危機事態」にあたるとの首相答弁や、非核三原則の見直し発言により、中国との政治的・軍事的緊張関係を高めている。中国政府の反発と経済的対抗措置もあり、日中の政治的関係は現在、最悪の状況にある。
中国政府の東南アジアでの大国主義や台湾における自由の抑圧を批判することと、台湾有事を日本への脅威と捉え(「存立危機事態」発言)、際限のない軍拡に走り、核武装までちらつかせることとは、まったく別の事柄である。
そもそも、安保法制の規定する「存立危機事態」への対処とは、我が国と密接な関係にある他国への武力攻撃を排除することに他ならず、個別的自衛権に基づく必要最小限度の実力行使を必然的に超える、それ自体憲法9条違反の規定である。
敵基地攻撃能力の保有を決めた2022年以降、勝連分屯地(沖縄県うるま市)、湯布院駐屯地(大分県由布市)に新たな地対艦ミサイル連隊が創設され、政府は2028年度以降、配備先をさらに拡大するとしている。すでに日本全土がミサイル基地化されつつあり、一旦戦端が開かれれば日本全土が攻撃対象となる。四方を海に囲まれ数十基の原発を抱える日本において、市民が戦禍を免れる術はない。
高市首相は台湾有事「存立危機事態」発言を撤回し、軍拡と基地強化をやめ、中国政府との緊張緩和を図るべきである。
(3)数の力を頼んだ憲法改悪、「スパイ防止」法の制定に断固反対する
高市首相は選挙が終わるや「憲法改正に向けた挑戦も進めてゆく」「少しでも早く憲法改正の賛否を問う国民投票が行われるよう環境をつくってゆく」と述べている。
しかし、高市首相が選挙中に改憲を訴えたのは、選挙最終盤に新潟の屋内演説で「(自衛隊を)実力組織として位置付けるため憲法改正をやらせて下さい」と述べた一度きりであり、憲法改正が国民の信を得たとは到底言えない。
自由法曹団東京支部は、国会内の数の力を頼みに、憲法9条への自衛隊の明記、緊急事態条項の設置等、憲法改悪を進めることに強く反対する。
自民党、日本維新、国民民主、参政の各党は衆院選の公約に「スパイ防止」法制定を掲げた。自民党の公約には日本版CIAである「対外情報機関」の設置が盛り込まれた。高市首相は政権の「重要な政策転換」の一つに「国家情報局の設置も含めインテリジェンス(情報の収集・分析)機能の強化」をあげ、「新たな国づくり」を進めると謳っている。
「スパイ防止」法は戦前の軍機保護法に当たり、「スパイ防止」の名のもとに国家が国民生活をスパイ(監視)するところにその本質がある。高市首相のいう「新たな国」とは、「戦争する国」に外ならない。
自由法曹団東京支部は、市民生活を監視し、軍拡と戦争への批判を封じ込める同法の制定に断固反対し、その阻止に全力を尽くす。
(4)選択的夫婦別姓の先送りを許さず、早期の実現を求める
2025年の通常国会で、選択的夫婦別姓導入に関する法案審議が28年ぶりに行われ、自民党内にも賛成意見が一定程度あり、実現の機運が高まった。しかし、同年夏の参院選で選択的夫婦別姓反対の参政党が躍進し、その後誕生した高市政権下では旧姓の通称使用の法制化が与党の政策となり、本年2月の総選挙でも夫婦別姓はほとんど議論されない状況にある。
OECD加盟国中夫婦同姓を法的に強要している国は日本だけである。選択的夫婦別姓の導入はすでに世論の多数が賛同しており、導入を拒む理由はない。旧姓の通称使用によっては氏名というアイデンティティを保持する権利が守られないばかりでなく、特に海外において旧姓と戸籍姓の同一性を証明できない等数々の具体的不利益も指摘されている。同姓の強要により社会生活上多大の苦痛を被っている当事者(圧倒的多数は女性である)のため、一日も早い導入を求める。
(5)原発への回帰ではなく、再生可能エネルギー中心の政策に再び舵を切ること
自民党は総選挙で、原発の再稼働や次世代革新炉の開発・設置に取り組むとして、将来にわたる原発の活用を謳っている。苛酷事故の際の避難体制が未確立のまま各地での原発再稼働が強行されており、原発回帰の傾向が著しい。
しかし、浜岡原発におけるデータ改ざん(想定地震の揺れの過小評価)が外部通報により発覚し、電力事業者が東日本大震災から何の教訓も得ておらず、原発稼働のためなら不正も厭わないこと、原子力規制委員会の審査能力にも重大な疑問があることが露わになった。反対の世論を無視して強行された東電・柏崎刈羽原発の再稼働は、2日後に制御棒の制御盤でトラブルが発生し、原子炉を停止させる事態となった。
原発は苛酷事故のリスクに加え、処分場もない核のゴミが発生し続け、国際的にも高コストが問題になっている。原発への回帰と再稼働の推進は、再生可能エネルギーの出力抑制を招き、再エネ推進を阻害する。
規制委の審査能力向上やクロスチェック解析の導入の必要性は無論であるが、原発回帰をやめ再生可能エネルギー中心の政策に再び舵を切ることを求める。
3 むすびに
私たち自由法曹団東京支部は、高市政権がトランプ政権の暴走に追従することなく、国連憲章など国際法のルールを遵守する姿勢を明確にすることを強く求める。また、高市政権が国会での数の力に頼り、日本国憲法の定める平和・人権・民主主義の原則を否定する諸施策を強行することに強く反対するとともに、上記重要課題の要求実現のため全力を尽くすものである。
以 上
2026年2月21日
自由法曹団東京支部 第54回総会