自由法曹団 東京支部
 
 
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団支部の活動紹介

パレスチナ・ガザ地区における集団殺害(ジェノサイド)の即時停止、及び、イスラエル軍のガザ地区から即時撤退、ガザ地区の封鎖解除を求める決議

 イスラエル軍の大規模攻撃により、パレスチナ・ガザ地区での民間人犠牲者が増加の一途をたどっている。報道によるとその犠牲者は2万8000人を超えており、その犠牲者の多くを18歳未満の子どもたちが占めているという。人口225万人のガザ地区において民間人犠牲者が2万8000人超という数の凄まじさは、これを日本に置き換えた場合、人口約1億2000万人のうち約150万人が殺害された計算となることからも容易に伺える。イスラエル軍の攻撃は、軍事施設等に限らず、民間住宅や病院、インフラ施設等を対象としており、国連によれば、ガザ地区の人口の約8割にあたるおよそ180万人が住む家を追われ、避難生活を強いられているとのことである。
 イスラエルは、今回のガザ攻撃の直接の契機が、2023年10月7日に行われたイスラム抵抗運動(ハマース)によるイスラエルに対する越境攻撃にあるとし、同攻撃によって約1100人の犠牲者が生まれ、またイスラエルの民間人を含む人々が人質にされた点をして、今回の一連の攻撃がすべて自衛権の行使であると説明する。
 しかし、ガザ地区では、イスラエル軍の保健医療施設への攻撃によって、病院や診療所や保健所の大半が閉鎖に追いやられており、それが一般市民の適切な医療を受ける機会を奪い、ガザ地区のパレスチナの人々の犠牲者の拡大を生み出している。イスラエルのネタニヤフ政権は、ハマースが病院や学校などを攻撃の拠点としているため自衛のためのやむを得ない攻撃である旨説明するが、その真偽は不明であり、また仮にイスラエルの主張のとおりであったとしても、その攻撃による犠牲者は圧倒的にガザ地区の一般市民である。イスラエル軍の攻撃は、武力紛争の際であっても、一般市民や民間施設、病院などはあらゆる戦争行為から守られ保護されなければならないとする国際人道法に反する攻撃であることは明らかである。
 国連は、2023年10月27日に開催された第10回国際連合緊急特別総会において、パレスチナ・イスラエル戦争におけるイスラエルの行動を非難し、「即時かつ持続的な」人道的休戦と戦闘行為の停止を求める決議(国際連合総会決議ES-10/21)を採択した。また、国際司法裁判所(ICJ)も、2024年1月26日、南アフリカ政府の申立てを受け、同戦争におけるイスラエルの攻撃をめぐり、イスラエルに対してジェノサイド(集団殺害)を防ぐあらゆる措置をとるよう命ずる仮処分を発した。直近の同年2月13日には、ガザ地区での戦闘中止をめぐり、エジプト、カタール、アメリカが関与して停戦協議が行われた。しかし、いずれも効を奏することなく、未だパレスチナ人犠牲者は増え続けている。そのような中、イスラエルのネタニヤフ首相は、居住地から追いやられたパレスチナ人の避難地となっているガザ地区南部のラファへの総攻撃を行う姿勢を示しており、安全を求めて避難をしたパレスチナ人が、さらに避難先でもその生命、身体、生活などを奪われる危機に直面している。
 前記ICJの仮処分では、一連のイスラエルの攻撃につき、ジェノサイド(集団殺害)に該当するかの判断までは示されなかった。しかし、イスラエルの攻撃は、ガザ地区のパレスチナ人を対象とした民族的集団殺害にほかならず、その犠牲者のほとんどが非戦闘員、しかも18歳未満の子どもが多く含まれている事実、その攻撃の規模、兵力の不均衡、残虐さに鑑みれば、1948年に国連総会で決議・採択された集団殺害罪の防止および処罰に関する条約(ジェノサイド条約)が禁止する「民族的な集団を全部又は一部破壊する意図をもって集団構成員を殺すこと、集団構成員に対して重大な肉体的又は精神的な危害を加えること」に該当し、集団殺害(ジェノサイド)と断じるほかないものである。

 自由法曹団東京支部は、集団殺害(ジェノサイド)を許さないとの見地から、イスラエルに対し、直ちに、無条件で、イスラエル軍をガザ地区から撤退させるとともに、ガザ地区の封鎖の解除、そして恒久的停戦によりパレスチナ人のガザ地区での生命、身体、財産、そして居住の権利その他国際法上の等しく人間に認められる当然の権利すべてを保障・尊重するよう求め、ここに決議する。

 今回の悲惨な事態には、今から75年前にイスラエルが建国された際、およそ70万人のパレスチナ人が住んでいた土地を追われて難民となったこと、その後4度にわたる中東戦争があったこと、イスラエルの占領に対する抵抗運動の中でハマース(イスラム抵抗運動)が生まれたこと、約30年前にはじまったイスラエルとパレスチナの和平プロセスが頓挫してしまったこと、その後ハマースが勢力を拡大し、パレスチナ立法評議会選挙で正当に勝利したにもかかわらず国際的に承認されず、ガザ内戦に勝利したハマースがガザ地区を統治するようになると、イスラエルがガザ地区を封鎖し、人的・物的交流が自由にできないだけでなく、インフラ整備すらままならない劣悪な「天井のない監獄」と評される非人道的状態がつくりだされたこと、これらの歴史的事実はすべて密接に結びついて現在の悲劇が生み出されていることがきちんと理解されなければならない。

 現在のパレスチナの人々が受けている被害、犠牲は、いかなる歴史的背景を考慮しても容認することができないほどに凄惨である。加えて、1967年以来60年近く続くイスラエルの土地占領及びガザ地区の封鎖は、国際法上、容認できない違法な占領・封鎖であることは、国連が幾度も勧告をしてきたことからも明らかであり、これらを踏まえれば、本問題の解決の第一の責任はイスラエルにあるというべきである。

 そこで、自由法曹団東京支部は、イスラエルに対し、まずもって即時、かつ、無条件のイスラエル軍の撤退、ガザ地区の封鎖解除、そして恒久的な停戦とパレスチナの人々の権利の尊重を強く求め、前記決議をする。
 また、自由法曹団東京支部は、国連安保理において、拒否権を4度(2024年2月20日時点)も行使し、ガザ地区における停戦決議を妨げ、和平への道筋を遮断させた米国も強く非難する。
 そして、自由法曹団東京支部は、日本政府に対し、日本政府が前記国連決議において採決を棄権したこと(その後、総会において賛成)、及び、2023年11月に東京で開かれたG7外相会合の共同声明で、ハマースを強く非難しながら、イスラエルに対して踏み込んだ非難をせず、実質的にイスラエルの行動を正当化したというほかない行動をとったことを、強く非難する。国際社会がパレスチナ問題に対し消極的な対応をしてきたことが今日の紛争を招いたことを私たちは反省しなければならず、自由法曹団東京支部は、日本政府に対して、パレスチナ人の犠牲の拡大防止、救済の見地から、即時、かつ、実効的な即時停戦、イスラエル軍の撤退、封鎖の解除に必要な最大限の努力を払うことを強く求める。特に直近の課題として、日本政府が、ガザ地区で食糧支援などを担うパレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への拠出金を一時停止している対応を強く非難し、人道の見地から、直ちに資金を拠出するよう強く求め、ここに決議する。

2024年2月23日
自由法曹団東京支部総会
 
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