自由法曹団 東京支部
 
 
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団支部の活動紹介

松村智成台東区議会議員の性的マイノリティに対する差別発言に対して抗議し、同差別発言の撤回を求めると同時に、同差別発言を容認した自民党台東区議団に対して抗議する声明

1 松村智成台東区議会議員の性的マイノリティに対する差別発言と、自民党台東区議団の差別発言の容認
 東京都台東区議会議員の松村智成議員(自民党)は、2023年9月20日に開かれた区議会定例会の一般質問で、同年6月に施行されたLGBTQへの理解増進法について、区教委の見解を質問した際、「ジェンダーギャップという特殊な状況への理解を優先させることに違和感」があると発言し、男、女、それ以外、などの性自認について「偏向した教材や偏った指導があれば(子どもを)同性愛へ誘導しかねない」と発言し、また、性の多様性を学ぶため埼玉県教委が発行したリーフレットを例に挙げながら「男性や女性の特徴を軽視するような教育を行っては児童が混乱する」と発言した。しかし、これらの発言は、性の自認や性的指向は本人の意思で変えられるものではないという脳の性分化についての医学的、科学的到達点を全く理解していない極めて非科学的な発言であり、「性的指向及びジェンダーアイデンティティーの多様性を受け入れる精神を涵養し、もって性的指向及びジェンダーアイデンティティーの多様性に寛容な社会の実現に資する」という同法の目的に反する性的マイノリティに対する差別発言である。
 また、松村区議会議員は、他にも「日本には性的マイノリティーに属する人が3〜10%いると言われるが私の周辺の方から聞いて感じる様子と大きな隔たりがある」と性的マイノリティの存在そのものを否定するかのような発言をしただけでなく、「下半身が男性の外形をした人が女性スペース等に侵入する」とも発言した。しかし、トランスジェンダーの方が望んでもいないことを望んでいるかのように強調し、トランスジェンダーの方と性犯罪を非科学的に結びつけて恐怖心をあおり立てる発言は、差別と偏見を助長するものであり、トランスジェンダーの存在を脅かすものというべきである。
 しかも、松村区議会議員は、その後のマスメディアの取材に対し「発言を撤回するつもりはない」と公言しただけでなく、質問は事前に当事者や児童に意見を聞いた上で、台東区の自民党会派内で調整したものだと説明するに至り、自らの非を全く認めようとしなかった。

2 松村区議会議員の発言の違法性・不当性
 LGBT理解増進法(性的指向及びジェンダーアデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律)は、「全ての国民が、その性的指向又は性同一性にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、性的指向及び性同一性を理由とする不当な差別はあってはならないものであるとの認識の下に、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを旨として行われなければならない」ことを基本理念で掲げるところ、松村区議会議員の上記複数の発言は、いずれもこの基本理念に明らかに反する違法・不当な差別発言である。
 そもそも教育が同性愛を助長するということは考えられない。この発言は、性的指向や性自認が、あたかも教育や自分の意思で変えることができることを前提としている非科学的で誤った発言であり、むしろ松村区議会議員のような非科学的な知見を公言する者にこそ、適切な科学的合理的な教育が必要というべきであろう。
 子どもたちの中には、いまだ自分が性的マイノリティであることを公にできない者もおり、松村区議会議員の発言はそのような子どもたちに対する差別を助長するものでもあり、未成熟ゆえに苦しむ者をさらに苦しめる発言となることを強く自覚されるべきである。
 松村区議会議員は、台東区議会の区民文教委員会の副委員長も務めており、その発言の影響力は小さなものではない。しかも、上記のとおり、松村区議会議員の発言は、台東区議会の自民党会派内で調整を経た上での発言ということであるから、松村区議会議員の差別発言は、自民党台東区議団の見解と評価されても仕方のないものである。この松村区議会議員の差別発言を安易に容認した台東区議会の自民党区議団も、その責任は免れない。

3 松村区議会議員の差別的発言に対して強く抗議し、違法・不当な差別的発言の撤回を求める
 性的マイノリティに対する差別をなくし、人々の多様な性のあり方がありのまま尊重され、性のあり方によって個々人が差別されることなく安心して生活できる社会の実現に向けて取り組んでいる私たち自由法曹団東京支部は、松村智成台東区議会議員の違法・不当な差別的発言に対して強く抗議し、その発言の全部を撤回するよう求めるとともに、かかる違法・不当な差別的発言を容認した自民党台東区議団に対して強く抗議する。

2023年10月5日
自由法曹団東京支部
支部長 野澤裕昭
 
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