自由法曹団 東京支部
 
 
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団支部の活動紹介

小池都知事の朝鮮人虐殺の犠牲者追悼式への追悼文見送りに抗議するとともに、関東大震災での虐殺の事実を風化させない決議

1 100年前の虐殺
 今年は関東大震災100周年にあたる。
 1923年9月1日11時58分、マグニチュード7.9の大地震が関東地方を襲い、死者は10万5000人を超えた。
 この混乱の過程で、関東各地で、軍、警察及び自警団が、朝鮮人、中国人、社会主義者、障がい者といった方々が無差別に虐殺されるといった事件が多数起きた。
 虐殺された人数は、6661人(「在日本関東地方罹災朝鮮同胞慰問班調査」報告書)とも、全死者の1〜数%(内閣府・中央防災会議の報告書)とも言われている。
 虐殺が起きたのは、「昨日の火災は、多く不逞鮮人の方か又は爆弾の投擲によるものなり」「鮮人三百名(中略)進撃中なり」といった流言がきっかけとなったものである。  震災翌日から戒厳令が敷かれ、内務省からも「朝鮮人は各地に放火し、不貞の目的を遂行せんとし(中略)鮮人の行動に対して厳密なる取締を加えられたし」とする通達がなされたこと等により、関東全体に拡大した。
 虐殺は朝鮮人だけにとどまらなかった。当時東京には2000人を超える中国人労働者も住んでいたが、彼らもこの混乱に乗じ虐殺される身となった。さらに、「亀戸事件」に象徴されるような、社会主義者に対する虐殺、さらには、発音から朝鮮人と認識された障がい者に対する虐殺も行われた。
 こうした虐殺は、人種・民族・国籍、政治的思想等を理由とする差別に基づくヘイトクライムに他ならない。
 このような悲劇が起きた背景には、植民地となった朝鮮半島から渡ってきた朝鮮人、1920年代に増加しつつあった中国人労働者、労働運動を行っていた社会主義者に対する、日頃からの差別意識、「何をしでかすかわからない」という恐怖心や憎悪、そこから派生するヘイトスピーチの存在がある。

2 都知事の追悼文見送りの意味
 こうした悲劇を踏まえ、横網町公園には、1973年に朝鮮人犠牲者追悼碑が建立され、翌年から40年以上にわたり追悼式が行われてきた。
 歴代知事は、朝鮮人虐殺の犠牲者追悼式への追悼文を送ってきた。小池知事も、就任した2016年には「極度の混乱の中、多くの在日朝鮮人が犠牲になった」などとする追悼文を朝鮮人追悼式典に送った。しかし17年から追悼文は見送られ、今年も見送られた。
 本年9月1日の定例会見でも、知事が虐殺の歴史について具体的に言及しないことについて質問が出たが、「すべての方々へ哀悼の意を表している」「極度の混乱下での事情で犠牲となった方々」とだけ説明した。
 政府自体も、松野博一官房長官が8月30日の記者会見で、「調査した限り、政府内で事実関係を把握できる記録が見当たらないところだ」と述べたように、従来から事実の存在を明らかにしてきていない。
 しかし、虐殺の事実は、被害者遺族や生存者の証言、研究等で明らかであるにもかかわらず、その事実を明言せず、追悼文の送付を控えるという行為は、虐殺を否定する姿勢とも受け止められ、ヘイトスピーチを助長することになりかねない。
 現に、虐殺の事実を問題視し、昨年の集会でヘイトスピーチ認定された団体は、今年も1日に追悼碑前で集会を行い、「東京都は朝鮮人6000人大虐殺の証拠を示せるのか」「日本人を貶める都立横網町公園朝鮮人追悼碑を許すな」という主張を繰り返していた。今なおヘイトスピーチが行われている実態がある。

3 風化させないために
 都知事が率先して歴史の事実を認めることは、現在も衰えることのないヘイトスピーチに対する大きな歯止めとなる。しかし逆に、今回の小池都知事の虐殺の事実に目を背け続ける行為は、ヘイトスピーチを助長し、歴史をねじ曲げ史実を風化させることにつながる。
 小池知事が今年も朝鮮人虐殺犠牲者の追悼式への追悼文を見送ったことに対して抗議し、来年以降の追悼式に追悼文を送付することを求めると同時に、関東大震災における朝鮮人・中国人、社会主義者、そして障がい者の、軍・警察・民衆による虐殺の事実に言及することも求める。
 自由法曹団東京支部は、本年2月の支部総会で、「関東大震災の虐殺事件の歴史を忘れず、歴史修正主義との闘い、ヘイトスピーチ・ヘイトクライムへの取り組みを進めていくことの決議」をした。
 今回、虐殺被害者には中国人、社会主義者、障がい者の存在を加え、また本年9月1日の都知事の対応等を踏まえて、改めて都知事に対し歴史を風化させないことを求める。

以上決議する。

2023年9月26日
自由法曹団東京支部幹事会
 
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