自由法曹団 東京支部
 
 
トップページ 支部の意見書・声明 2023年

団支部の活動紹介

安保三文書と岸田政権の軍事大国化への動きに抗議する声明

1 安保三文書改訂
 2022年12月16日、岸田内閣は、国家安全保障戦略、国家防衛戦略及び防衛力整備計画(安保三文書)を閣議決定した。
 安保三文書は、これまで政府が憲法九条の解釈として認めてこなかった敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を明記し、そのための費用を含む今後5年間の防衛費を総額4三兆円として、日本を軍事大国に導こうとするものであり、憲法前文、9条、41条などに違反する極めて危険なものである。
 国家安全保障戦略は、「我が国に対する武力攻撃が発生し、その手段として弾道ミサイル等による等による攻撃が行われた場合に、武力の行使の三要件に基づき、そのような攻撃を防ぐのにやむを得ない必要最低限の自衛の措置として、相手の領域において、我が国が有効な反撃を加えることを可能とする、スタンド・オフ防衛能力等を活用した自衛隊の能力」と定義される敵基地攻撃能力を保有することを明記した。防衛力整備計画では、12式地対艦誘導弾能力向上型(射程を1000q以上に延伸)、島嶼防衛用高速滑空弾及び極超音速誘導弾の開発・試作を実施・継続するとともに、防衛力の抜本的強化を早期に実現するため、米国製のトマホーク(射程約1600q)を始めとする外国製スタンド・オフ・ミサイルの着実な導入を実施するとしている。
 敵基地攻撃能力は、「武力攻撃が発生していない段階」で行使することはないとされている。しかしながら、政府は、「武力攻撃が発生した場合」とは「相手国が武力攻撃に着手したとき」であるとしており、実際には相手国から攻撃がなされる前から行使できる。何をもって着手と考えるかについて、政府から明確な考えは示されておらず、敵基地攻撃能力は、相手国に対する先制攻撃となってしまう可能性も否定できない。また、攻撃対象についても不明確であり、相手国の領域におけるあらゆる施設が対象となってしまう可能性がある。
 敵基地攻撃能力は、2015年に成立した平和安全法制に際して示された武力行使三要件を満たす場合に行使しうると明記されている。そして、敵基地攻撃能力は、日本に対する武力攻撃が発生した場合に限られず、「我が国と密接な関係のある他国に対する武力攻撃が発生し我が国に一定の危険があると判断された場合」に行使されることになる。
 端的に言えば、アメリカ合衆国に対する武力攻撃の着手があった場合に、日本がその相手国に攻撃を行うことが想定され、日本が米軍と一体になって戦争に突き進む事態が予想される。
2 軍需産業支援法
 国内軍需産業の基盤を強化する財政支援措置を盛り込んだ「軍需産業支援法」が2023年6月7日の参院本会議で賛成多数で可決、成立した。
 同法は、安保三文書において「官民一体となって防衛装備移転を進める」ことを明記し、「武器輸出」の対象拡大や企業支援の拡充に取り組もうとする方針を具体化するものである。
 軍需産業の製造ラインやサプライチェーン(供給網)の強化、事業承継等を支援し、対象は、民需品と共用の製造ラインや黒字企業も含まれる。採算が取れない場合は、製造施設を国有化し、企業が設備投資や維持管理の経費を負担せずに経営することを可能する。実際の管理運営lは民間委託とし「できるだけ早期に事業者に譲渡するように努める」と定めるが、不採算を理由に引き受け手を見つけられなければ長期間、国有化されたままとなる可能性もあり、国家予算のひっ迫につながる。
 武器輸出の円滑化に関しては、基金を創設し、政府の求めに応じて輸出する兵器の使用や性能を変更する場合にその費用を助成する仕組みもある。
 加えて、国が提供した装備品等の秘密を漏洩した行為に対する刑事罰が制定され、契約企業の従業員ら関係者も処罰の対象となる。軍事的情報を国家権力が刑罰をもって統制・管理するもので軍需産業関係者以外の一般市民を抑圧する危険性がある。
 政府与党は、殺傷能力のある兵器の輸出や、日英伊が共同開発する次期戦闘機の第三国への輸出を可能しようと「防衛装備移転三原則」やその運用指針の変更を検討している。具体的には、政府から安全保障面で協力関係にある国に対する輸出は、「救難」や「輸送」など5つの類型にあてはまれば、殺傷能力のある武器を搭載しても可能だとする見解が示されている。こうした動きは、国際紛争を助長する武器輸出の拡大であり、平和主義の理念と相いれない。
3 財源確保法
 我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法(以下、「財源確保法」という。)が2023年6月16日、参議院本会議で自民党をはじめとした与党の賛成多数で可決、成立した。
 財源確保法の内容は、@財政投融資特別会計財政融資資金勘定及び外国為替資金特別会計からの一般会計への繰入れ、具体的には令和5年度において、2千億円を一般会計に繰り入れ、外国為替資金特別会計から決算上の剰余金の繰り入れに加えて約1兆2千億円を一般会計に繰り入れる。A独立行政法人国立病院機構及び地域医療機能推進機構の国庫納付金の納付の特例(国立病院機構は、令和5年事業年度において、422億円、地域医療機能推進機構は、324億円を国庫に納付する。)B防衛力強化資金の設置が主な内容である。
 軍備費財源を確保するために本来一般会計に繰り入れることができない財政投融資や外国為替資金の一定額をそれぞれの特別会計から一般的会計に組み入れ、プールして自由に使えるようにすることは、毎年の予算を国会審議で決定する単年度主義を逸脱し、財政国会中心主義・財政民主主義(憲法第83条)に反し、軍事のための予算を聖域化するものである。個々の規定を見ても防衛強化資金の受け払いは歳出歳入外とされている(法第12条)。これは、国会の議決を必要とせずにすぐに出し入れが可能な予算であることを意味する。一般的に歳出歳入外となるものは、選挙の供託金や入札の保証金であり、こうした金銭の出し入れとなぜ同じ扱いなのか疑問である。さらに、財源確保法では、国会の議決を経た範囲に属するものは、防衛力整備計画の財源に充てるとされている(法第14条2項)。これは、特別会計の繰り入れや独立行政法人の積立金の一部返納のみならず、歳出改革と称して緊縮・予算削減により防衛費増額を可能にするものである。
 財源とされている税外収入にしてもほかの予算項目から回す形になれば、国債の発行が増えるおそれがある。同じく財源とされる決算余剰金についても国債の返済に従来は充てられており、返済額が少なくなれば金利が増加することになる。政権は国債発行に頼らない姿勢を示しているが、間接的に国債が増える形になるおそれがあり、現在すでに1212兆4680億円もの政府債務残高を抱えている財政状況を一層悪化させることになる。
 軍拡財源の一部として独立行政法人国立病院機構及び地域医療機能推進機構の積立金を流用し、医療や生活など国民の福祉を犠牲とすることが前提となってしまっている。
 これらの積立金は、本来は医療体制の拡充や職員の待遇改善に使うべき資金であり、これらの積立金を防衛費(軍事費)にあてることは、福祉政策の後退を意味するものである。本来、国民の福祉のために用いられるはずの予算を軍事に無理やり回すことは、戦前、日本が総力戦の名の下に国民資源を軍のために供出させた事例を彷彿させるものである。また、現在法令に挙げられている2つの独立行政法人のみが対象となる理由は不明であり、防衛費増額を大義名分として、さらに他の独立行政法人に対象が拡大される恐れがある。独立行政法人は、「国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務及び事業」と規定されているとおり、国民生活の重要な部分を性質の差こそあれ含んでいる組織であり、安易にその積立金を削減する仕組みを構築することは国民生活全般の引き下げにつながってしまう。
 さらに政府は、5年で43兆円の大軍拡財源をねん出するために復興税の一部を軍事費に充てるとともにさらに不足する分については、所得税・たばこ税・法人税の増税を計画している。復興税を防衛費(軍事費)に付け替えることは、東日本大震災からまだ回復をしていない地域があることから考えても政府の復興への取り組みの意思を疑わせるものであり、許すことはできない。
4 基地の強靭化
 防衛省は、安保三文書に基づき自衛隊基地の強靭化について業務の発注を公告した。核・生物・化学兵器や上空での核爆発に伴う「電磁パルス」にも耐えられるように、全国283地区で基地司令部の地下化や壁の強化などを進め、国土が戦場になることを想定した、自衛隊基地の一大強化に着手したものである。
 また、従来から基地の集中が激しい沖縄では、自衛隊基地のさらなる建設が進んでいる。2019年3月には、奄美大島では、陸上自衛隊奄美駐屯地と瀬戸内分屯地が開設され、宮古島でも陸上自衛隊宮古島駐屯地が開設されている。中距離地対空誘導弾(中SAM)を備える高射中隊(奄美駐屯地)、地対艦誘導弾(SSM)を持つ地対艦ミサイル中隊(瀬戸内分屯地)、そして警備部隊などが配備されている。2023年3月には、石垣島に陸上自衛隊の新たな部隊を発足させ、石垣駐屯地を開設した。
 そして、現在、鹿児島県の馬毛島に米軍の訓練などに使う自衛隊基地を建設する工事が進められている。米軍の空母艦載機訓練の移転先として使われる予定である。地元住民からは軍事施設が作られることに対する強い懸念が示されているにもかかわらず、工事は進められている。
 政府は、敵基地攻撃能力を担うミサイルやその運用部隊を南西諸島に配置する方向で検討をしている。中国人民解放軍の西太平洋への東進を警戒するもので、自衛隊及び米軍が南西諸島を超える航空機や艦船をミサイルで攻撃し、進行を阻むことが前提とされている。地元住民から反撃の対象とされることに懸念が示されるなど反対もされているが、政府がこれに配慮する姿勢は見られない。
 一連の基地建設、敵基地攻撃能力を実現する兵器、部隊の配置は、民意の無視であるともに、いたずらに隣国との緊張をあおる行動であり、平和主義の理念に反する。
5 自衛官募集のための自治体の情報提供
 自衛隊の募集のために、市町村が高校3年生など入隊適齢者の個人情報を自衛隊に提供するケースが増えている。防衛省によると自衛隊が紙などの媒体で市町村から個人情報を取得した全国の市町村は、2018年度の683から2022年度は1068に増えた。国はもともと、情報提供には、「自治体として応える義務はない」(2003年4月の石破防衛庁長官答弁)との立場であったが、2019年1月30日の衆院本会議で安倍晋三元首相が「全体の6割以上の自治体から協力が得られていない」と述べた。その後2020年12月に情報提供は住民基本台帳法との関係で問題とはならないという閣議決定が行われた。2021年2月には防衛省が各市町村に「募集に関して必要となる情報を求めることができる」と通知した。国からの通知は「技術的助言」に過ぎず「行わなかったこと」を理由に不利益な取り扱いをしてはならないが、この通知後、個人情報を提供する自治体が加速的に増えた。自治体のホームページなどで自衛隊に情報提供する旨を事前に周知し、自分の情報に関する除外の申請を受け付ける制度を整備している地方自治体もあるが、少数にとどまる。
 こうした動きは、単に情報提供の在り方の問題にとどまらず国が主導して若者を自衛隊に強く勧誘するものである。特に現在敵基地攻撃能力を保有し従前より自衛官になることのリスクが増大している状況では、防衛省、地方自治体には慎重な姿勢が求められる。
6 まとめ
 財源確保法、軍需産業支援法、基地建設及び強靭化などいずれも日本を軍事大国化し憲法の平和主義の理念を破壊するものである。自由法曹団東京支部は、あらためて安保三文書の破棄を求め、岸田政権が強行する軍事大国化に反対する。

2023年8月26日
自由法曹団 東京支部支部長 野澤 裕昭
 
自由法曹団東京支部 〒112-0014 東京都文京区関口一丁目8-6 メゾン文京関口U202号 TEL:03-5227-8255 FAX:03-5227-8257