自由法曹団 東京支部
 
 
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団支部の活動紹介

改正入管法の強行的成立に対し、強く抗議する声明

 2023年6月9日、出入国管理及び難民認定法等の一部を改正する法律案が、参院本会議で可決され、成立した(以下「改正入管法」という。)。入管法の改変については、2年前の通常国会でも多数の問題が指摘され廃案になった経緯があるところ、今回の改正入管法も廃案になった法案の問題点を是正、克服するものではなかったことから、国会周辺をはじめ、全国各地で反対するデモや抗議活動が繰り広げられ、国連の人権専門家からも懸念を示されていた。参議院法務委員会では議長の解任決議案が提出されたり、参院では法相の問責決議案も提出されたりするなど最後まで問題点の追及がなされたが、結局多くの問題を残したまま、与党などの賛成多数で強行的に可決・成立した。
 改正入管法は、以下のとおり、難民申請者や非正規滞在者の人権を軽視するものであり、我々自由法曹団東京支部は、その成立に強い抗議の意を表明する。

1 送還停止効の例外規定による、難民が迫害を受ける自国に帰国させられるおそれ
 改正入管法は、難民認定手続中は一律に送還が停止される現行入管法の規定(送還停止効)を改め、3回目以降の難民認定申請者等は、難民認定手続中であっても退去させることを可能にする規定が含まれている。
 政府は、かかる規定が入った根拠を、令和3年の衆議院法務委員会における、参考人質疑において発せられた、一人の難民審査参与員の「参与員は、入管として見落している難民を探して認定したいと思っているのに、ほとんど見つけることができない」といった発言に求め、そこから「申請者の中に難民がほとんどいない」という前提事実を作り出し、難民でないにもかかわらず帰ろうとしない「送還忌避者」の強制送還を可能とすることを正当化していた。
 しかし、当該発言を行ったのは柳瀬房子参与員であり、当該参与員一人が2022年度難民申請事件数の約4分の1にあたる1200件以上を担当し、ほぼ書類審査で済ませていたこと、他の参与員からは、柳瀬氏の発言について、難民が「ほとんどいないということは全くない」といった批判が噴出し、その規定の根拠とされた事実が誤りであり、立法事実がないことが明らかになった。
 このように難民認定のための充分な審査をせずに不認定とされる案件も多いと思われる中で、本件改正入管法成立により送還停止効の例外を認めることは、真に難民と認められるべき人を、強制的に迫害のおそれのある自国に帰すことになりかねない。これは、「締約国は、難民を、いかなる方法によっても、人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見のためにその生命または自由が脅威にさらされるおそれのある領域の国境へ追放しまたは送還してはならない」と規定するノン・ルフールマン原則(送還禁止原則)(難民条約第33条)に違反するものである。強制送還する難民の死刑執行ボタンを押すようなものという例えは、決して誇張ではない。
 庇護を望むものが難民であるか否か正式に判断される前に送還、追放されてはならないというのが国際難民法の原則なのであり、正式な判断がされる前に回数制限によって送還するなどということはこの原則に反し断じて許されない。

2 監理措置制度の創設による監視の強化
 改正入管法では、従来の仮放免制度に加え、親族や知人など、本人の監督等を承諾している者を「監理人」として選び、その監理の下で収容しないで退去強制手続を進める「監理措置」制度を設けており、全件収容主義ではなくなったという説明がなされている。
 しかし、監理制度を適用するか否かは入管の裁量に任されており、実質的には全件収容主義が変わったとは言えない。また、監理人となる者には必要に応じて報告義務が課され、怠れば罰則も課される。仮放免の場合、これまでは、身寄りのない人には支援者や弁護士が身元保証人になることも多かったが、入管への報告は、支援する立場であるはずの者が監視側に回ることになる。また弁護士が監理人となる場合、入管への報告義務は利益相反になる可能性も高い。改正入管法は、これらの問題点に対する疑念・問題点を全く払拭しておらず、結局、収用期間の上限設定などを求める国連自由権規約委員会による勧告や国民からの批判をかわすための形式的修正に過ぎないと言わざるを得ない。

3 人間としての扱いを
 改正入管法は、その他にも、在留特別許可申請手続の新設、難民に準じた者の補完的保護制度の創設、送還に応じなかった者に対する退去命令制度(刑事罰を含む。)の創設が組み込まれたが、いずれも特に在留資格が不安定な者を排除する傾向を強めている。
 東京には、関東近辺10県を管轄する東京出入国在留管理局や、近隣では、長期収容施設である東日本入国管理センターが存在する。改正入管法によって、退去強制令書が発付され各入国管理局・センターに現在収容されている人や仮放免となっている人々が救済されることは少なく、むしろ強制送還の可能性が高くなる。東京入管では昨年11月、収容されていたイタリア人男性が自殺した。また制圧を伴う強制送還は、日常的に行われている。先日は、大阪入管の常勤医師が飲酒しながら診療し、入管も法務大臣もその事実を把握しながら、隠し続けてきた事実も明らかになった。医療体制の不備により各種受診・治療が遅くなることも依然として変化がない。
 自由法曹団東京支部は、上記のような問題点を解消しないまま、非人道的な強制送還等を是認しかねない改正入管法の成立に強く抗議するとともに、非正規滞在者として現に存在する人々が、人間としての当然の扱いと受けるべく、日々の入管行政を監視し、今後のさらなる法改正を含めた入管行政の改善に向けて、今後も積極的に取り組む所存である。

2023年6月29日
自由法曹団東京支部 支部長 野澤裕昭
 
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