自由法曹団 東京支部
 
 
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団支部の活動紹介

日本学術会議法改正案に反対し、改正法案の提出に反対する決議

 2022年12月6日、内閣府は「日本学術会議の在り方についての方針」を唐突に公表したが、以下の4点の問題点が明らかになっている。
 @日本学術会議(以下 、「学術会議」という。)には「政府等と問題意識や時間軸を共有」することが求められているとの表現が、再三繰り返されているが、学術会議の独立性・自律性という視点がなく、政府に協調し、追随する組織になることを求めていること、A学術会議は「新たな組織に生まれかわる覚悟で抜本的な改革を断行することが必要」との言葉で総論を締めくくっており、根本的な変質を迫っていること、B会員選考のルールや選考過程への「第三者委員会」の関与が提起されており、会員人事の独立性・自律性が損なわれるおそれがあること、C「内閣総理大臣による任命が適正かつ円滑に行われるよう必要な措置を講じる」との文言があり、内閣総理大臣の実質的任命権や任命拒否を肯定していることである。
 内閣府は「できるだけ早期に関連法案の国会提出を目指す」とし、具体的には、年度末(2023年3月末)までに通常国会に法案を提出した上成立させるという意図のもと、法案成立後、改正法に基づいて会員選考・任命を行うため、2023年10月の会員改選は行わず、「次期改選は1年半程度延期する」とし、日本学術会議法の改正案については、本年度の通常国会で提出する見込みとのことである。
 振り返れば、2020年10月1日、当時の菅義偉首相は、学術会議が法に則った適正な手続で会員として推薦した105名のうち6名の任命を、理由も一切明らかにしないまま拒否するという、学問の自由を脅かす前例のない暴挙を行った。
 そもそも学術会議は、科学者集団としての学問共同体であり、その政治権力からの独立性・自律性は、憲法23条の学問の自由によって保障されなければならないものである。学術会議が「独立して」職務を行うとされるのは(日本学術会議法3条)、憲法23条の要請に基づくものである。このように学術会議が政府から独立した組織であるからこそ、学問に裏付けられた公正な立場で政府に意見を述べることができ、学問を人類の福祉に役立てるという学術会議の目的を達することができる。 そして、会員人事の自律性は、学術会議の独立性の根幹をなすものである。だからこそ、これまで「内閣総理大臣の任命権は形式的なもの」との政府答弁が重ねられ、そのように運用されてきたものであった。
 菅首相による任命拒否に対して強く抗議する1162名の法律家(法学者・弁護士)は、2021年4月26日、情報公開法に基づき、政府に対し、任命拒否の理由を明らかにするため行政文書等の開示請求を行ったが、政府は文書の「不存在」を理由に不開示決定をした。そこで、同年8月、情報公開請求人は行政不服審査法に基づく審査請求を行った。情報公開請求を通じて、本件任命拒否には正当な理由などないことを明らかにするだけでなく、本件任命拒否が違憲・違法な過ちであったことを政府に認めさせ、6名の任命を実現し、将来にわたって二度と再び違憲・違法な任命拒否を行わせないことをめざしたものであった。
 このたび唐突に出された政府の「方針」と日本学術会議法改正に向けた動きは、政府の意向に沿う人を会員にし、政府が気に入らない人を排除することを可能とする法律を作り、学術会議の独立性・自律性を完全に失わせようとするものである。これは、憲法23条に違反して、政府の下に科学・学術を従属させようとするものであり、学術会議のあり方を変容させようとするものに他ならない。学術会議は、科学者が戦争に協力してきたことの歴史的反省から1949年に設立され、軍事研究に反対する声明を繰り返し出してきた経緯もある。
 2022年12月16日閣議決定されたいわゆる安保3文書は、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有、防衛予算GDP2%・5年で43兆円などを打ち出し、いま日本は、本格的な軍事国家へと舵を切ろうとしている。
 このような情勢の下で、政府は、政治権力から独立した存在の学術会議を、政府の安全保障政策に再び従属させようと考えていることは明らかである。
 学術会議の独立性・自律性を侵すことは、広く国民・市民の、学問、思想、良心、表現の自由に対する重大な脅威につながり、ひいては戦争への道につながりかねないものである。
 自由法曹団東京支部は、学術会議の独立と学問の自由を守るため、日本学術会議法改正案に抗議し、改正法案の提出に反対する。

2023年2月24日
自由法曹団東京支部総会
 
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