自由法曹団 東京支部
 
 
トップページ 支部の意見書・声明 2022年

団支部の活動紹介

英語スピーキングテストの中止または都立高校入試への活用に反対する声明

1 東京都は今年11月27日に都内全公立中学3年生約8万人に対して民間業者(ベネッセ)による英語スピーキングテストである略称ESAT−Jを実施して、それを2023年都立高校入試の合否判定に活用する準備を進めている。

2 そもそも、問題文を読んで英語で回答をする形式では正解は一つではなく何パターンもありうる。そのようなテストに公正公平な採点ができるのかという疑問もある上に、ESAT―Jの場合、採点を担う「学力評価研究機構」がフィリピンの業者に採点を依頼することとなっている。同業者における採点基準は不明であり、本当に公平公正な採点ができるのか甚だ疑問である。
 また、ESAT―Jは、1日のうち前半組と後半組に分けて受験することとなっていて、同一時間での受験ではなく、試験の公平さに疑問がある。
 この制度導入に際して、中学校教員にも保護者にも十分な周知がなされていない。ESAT―Jについては、都教委から2枚のプリントが配布されただけである。心配になった保護者が中学校に電話をして確認しても、教員も説明ができない状況である。ESAT―Jを受験するためには、事前にベネッセのサイトにID登録をする必要がある。しかし、このサイト登録についての周知も十分ではなく、保護者間には混乱が広がっている。

3 このようなESATーJの成績を都立高校入試に加算することについても、問題点が見られる。
 ESAT―Jは100点満点のテストである。0〜100点までの点数を、0、1〜34、35〜49、50〜64、65〜79、80〜100と6段階に分けて、順番に、0、4、8、12、16、20と換算点とする(つまり、ESAT―Jで70点を採った子は16点の換算点となる)。この換算点を、従来の入試の点数に加算して、合否判定をする。この加算方式では、例えば、ESAT―Jで65点採った生徒とESAT―J80点採った生徒が16点と同じ換算点を付けられることになる。また、ESAT―Jで64点採った生徒とESAT―Jで65点採った生徒は1点の違いしかないのに、換算点では12点と16点と4点も違った点が付けられることとなる等、到底公平とはいえない結果となる。
 また、ESAT―Jを受験できるのは、都内公立中学校の子どもたちだけである。国立中学私立中学や都外中学の子ども達は、ESAT―Jを受験することができない。そして、この不受験者については、2月に実施する英語学力検査(筆記試験)の得点から、所定の方法で仮のESAT―Jの結果を推定して加算することとなっている。つまり、受験していないにもかかわらず、スピーキングテストの結果を筆記テストから推定されて、得点が付けられることとなり、教育の機会均等の点からも大きな疑問が残るものである。
 さらに、今、中学校では、遅くとも前年12月には担任との面談が終わり、志望校を確定して、担任が入試のための書類を作成し、1月下旬に都立高校受験の出願をする。1月中旬にESAT―Jの結果が返却され、その結果が思ったより悪くて志望校を変更することを検討し始めたとしても、子どもが担任と面談する等して十分に納得して志望校を変更することは困難である。
 その他、ベネッセは、ESAT―Jと酷似しているGTECCoreというテストを実施している。そして、都内の区市町村のうちたった9箇所だけが、全校でこのGTECCoreを実施している。スピーキングテストのようないわば慣れを必要とするテストについて、同じ事業者が作成する同様のテストの受験の有無は、結果に大きな影響を与えることは必至である。居住区により同様のテストを受けているか否か異なることは不公平と言わざるを得ない。

4 グローバル化する社会の中で、英語スピーキング能力が重要となることは間違いはない。しかしながら、多くの子どもにとって人生を左右しかねない高校受験の場で、その子自身の努力以外の要素により合否が決まることを認めるべきではない。
 東京都は、上記のように多数の問題があるESATーJの実施自体を中止するか、ESATーJの都立高校受験への活用を中止すべきである。
 よって、自由法曹団東京支部は、ESATーJの実施、ESATーJの都立高校受験への活用に反対するものである。

2022年11月1日
自由法曹団東京支部幹事会
 
自由法曹団東京支部 〒112-0014 東京都文京区関口一丁目8-6 メゾン文京関口U202号 TEL:03-5227-8255 FAX:03-5227-8257