自由法曹団 東京支部
 
 
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団支部の活動紹介

安倍元首相の「国葬」に弔意を強制することは許されない

 政府は、安倍元首相の「国葬」を本年9月27日、日本武道館で実施することを発表した。葬儀委員長である岸田首相は、各省庁においては弔旗掲揚と黙祷を実施することを決定している。
 しかし、「国葬」を実施し、及び、「国葬」において弔旗掲揚や黙祷により弔意を強制することは、日本国憲法に反し許されない。
 「国葬」は、公費を投じて行われるものである以上、財政民主主義(憲法83条)の観点から、国会の議決が不可欠であるところ、「国葬」に関して何らの国会の議決は行われていない。また、戦前の「国葬令」は日本国憲法の制定によって失効し、「国葬」を法的に正当化する法律は存在しない。
 岸田首相が、「国葬」の実施の根拠として挙げた内閣府設置法は、内閣の所管業務の範囲を定めた単なる組織法にすぎず、「国葬」の実施と公費の支出に関して法的根拠となるものではない。
 したがって、「国葬」を憲法上・法律上の根拠なしに実施することは認められない。
 さらに、主要新聞紙上による世論調査において、「国葬」の実施に反対するが50%を超えている状況において、世論を無視して16億円以上もの税金を費やして「国葬」を強行することは許されない。
 また、各省庁において弔旗を掲揚し黙祷を実施することは、国家公務員の思想・良心の自由を侵害するものである。
 思想・良心の自由は、内心に止まる限りいかなる思想・信条も絶対的に保障するものである。国家権力が個人の内心に踏み込んで思想・信条の告白を強制することを禁じるものであり、沈黙する自由をも保障するものである。
 各省庁において弔旗を掲揚し黙祷を実施することは、各省庁の国家公務員に対し安倍首相への弔意を事実上強制するものであり、思想・良心の自由を侵害することは明らかである。
 今回、政府は地方公共団体等の各公的機関に対し弔旗掲揚や黙祷を実施することを求めないと表明している。しかし、国の機関である各省庁が実施することで関係各公的機関が弔旗掲揚・黙祷を実施することが問題ないと判断し、各省庁にならって弔意を強制する行為を実施するおそれが多分に認められ、このような観点からも各省庁に対し弔旗掲揚と黙祷を実施させることは適切ではない。
 したがって、地方公共団体等の各公的機関においても、弔旗掲揚・黙祷に限らず、弔意を強制することは厳に慎むべきである。
 自由法曹団東京支部は、安倍元首相の「国葬」の実施に強く反対し、各省庁及び各公的機関において弔旗掲揚と黙祷を実施することを中止するよう強く求める。

2022年9月14日
自由法曹団東京支部支部長野澤裕昭
 
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