自由法曹団 東京支部
 
 
トップページ 支部の意見書・声明 2019年

団支部の活動紹介

都立病院の一般地方独立法人化に反対する決議

1 東京都病院経営本部は,2018年3月,「都立病院新改革実行プラン2018」(以下,「本計画」という。)において2018年度から2023年度までの運営計画を策定した。本計画において,都立病院の果たすべき役割として,「行政的医療の安定的かつ継続的な提供」や「地域医療の充実への貢献」を掲げる一方,「安定的な経営基盤を確立し,今後も担うべき役割を持続的に果たしていくためには,現行の経営形態では運営上の課題があり,その見直しについての検討が必要」として,「一般地方独立行政法人を含めた各経営形態におけるメリット・デメリットなどの検証を行い,経営形態のあり方について,本計画期間中に検討」するとした。本計画に先立ち2018年1月に発表された都立病院経営委員会報告「今後の都立病院の在り方について」では,「一般地方独立行政法人が制度的に最も柔軟であり,今後の都立病院にふさわしい経営形態である」としており,独法化を進める可能性が高い。
 しかし,都立病院の独法化は以下のとおり多数の問題をはらみ,都民の命と健康を守る最後の砦である行政的医療,すなわち,地域の医療機関では対応困難な分野や不採算である医療サービスの提供をないがしろにするものである。2018年12月28日には,都立病院の充実を求める連絡会及び各都立病院を守る会が小池都知事宛に独法化検討中止を申し入れるなど,市民の間でも独法化反対の運動が広がっており,自由法曹団東京支部としても,都立病院独法化に強く反対する。

2 都立病院独法化を進める根拠として挙げられるのは,都立病院において毎年400億円もの赤字が出ていることや,職員定数,人事などが柔軟でないことである。
 前者については,「赤字」というのは不正確であり,正確には東京都一般会計からの繰入金が年間400億円である。かかる繰入金は,地方公営企業法第17条の2第1項1号「その性質上当該地方公営企業の経営に伴う収入をもって充てることが適当でない経費」又は同項2号「当該地方公営企業の性質上能率的な経営を行ってもなおその経営に伴う収入のみをもって充てることが客観的に困難であると認められる経費」として,法令及びその委任を受けた省令に基づき東京都の一般会計から支出されるものであり,「赤字」ではない。都立病院におけるかかる繰入金は,公営企業だからこそできる医療行為のための不可欠の支出であり,都民の命と健康を守るために重要なものである。東京都病院経営本部経営企画部長児玉英一郎氏は,2018年11月1日の厚生委員会における白石たみお都議の質問に対し,「単なる赤字補填というものではないと認識している」旨回答している。
 後者については,行政的医療を担う病院として当然に求められる人員配置を実施するために必要となる制約であり,経営効率化のためにないがしろにすることが許されるものではない。また,さいたま市立病院や富山市民病院など,公営企業という組織のまま,人員の大幅な増員等を行って収益改善につなげた例もある。公営企業では制度的な制約があるとするのは,柔軟な運用のための努力を怠ってきた自治体当局の言い訳に過ぎない。

3 そもそも,都立病院の経営適正化を掲げて東京都からの支出を減じるということは,行政的医療と担う都立病院職員や都民にその負担を強いることを意味するのであり,断じて許されない。設立団体(自治体)は,地方独立行政法人に対し,必要な交付金を支出できると法定されているものの(地独法42条),2008年に独法化された東京都老人医療センターでは,法定病床数711床から161床も削減し,原則徴収していなかった差額ベッド代について,25%を個室として1万1000円から2万6000円の差額ベッド代を徴収し,かつ,有料個室使用には保証金10万円の支払いを求める等,利用者の負担が著しく増やされている。
 また,独法化されれば,採算を重視するあまり,不採算部門とされる小児医療や周産期医療,救急医療等が縮小・後退する可能性が高く,職員は地方公務員の職を失い,賃金の切り下げ等労働条件の悪化は容易に予測され,それによってさらに行政的医療の質が低下するおそれがある。

4 以上のとおり,都立病院の独法化は,その根拠も薄弱であり,行政的医療を提供する都立病院の機能を失わせるとともに,その負担を都立病院職員及び都民に押し付けるものであり,都立病院にふさわしい経営形態ではない。石原都政時代,「効率化」や「生産性の向上」を旗印に,都立病院改革と称して,16あった都立病院を8に半減させるなど,東京都は,行政的医療を担う役割を縮減させてきた。
 これ以上,都立病院の機能を失わせ,都民の命と健康をないがしろにすることは許されず,自由法曹団東京支部は,都立病院の地方独立行政法人化に強く反対するものである。

2019年2月23日
自由法曹団東京支部第47回定期総会
 
自由法曹団東京支部 〒112-0014 東京都文京区関口一丁目8-6 メゾン文京関口U202号 TEL:03-5227-8255 FAX:03-5227-8257