自由法曹団 東京支部
 
 
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団支部の活動紹介

柴山文部科学大臣の辞任を求める

 安倍政権の内閣改造で文部科学大臣に就任した柴山昌彦氏は,その就任会見で,戦前・戦中の教育で天皇制イデオロギーを児童生徒に注入するためにもちいられた教育勅語について,「アレンジした形で,今の道徳などに使える分野があり,普遍性を持っている部分がある」などと述べた。
 いうまでもなく,教育勅語は,天皇制国家確立のため,忠君愛国,滅私奉公を最高の道徳として1890年に勅語の形式で発布された道徳的統一原理である。勅語では,例えば「親を大切にする」という徳目も,教育勅語の官定版解説書である「勅語衍義」で,「国君ノ臣民ニ於ケル,猶ホ父母ノ子孫ニ於ケルが如シ,即チ一国ハ一家ヲ拡充セルモノ」と説明されているとおり,天皇と「臣民」の関係を父母と子孫の関係と同一視し,天皇に対する忠孝を求めることに結び付けられていた。徳目の締めくくりは「一旦緩急アレハ義勇公ニ奉ジ以テ天壌無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ」,すなわち「万一危急の大事が起ったならば,大儀に基づいて勇気をふるひ一身を捧げて皇室国家の為につくせ。」(文部省図書局,教育に関する勅語の全文通釈)とされ,天皇制国家のために死ぬことが最も重要であることが強調され,各徳目も天皇に命を捧げることに結び付けられていた。そして勅語自体「中外ニ施シテ悖ラス」として,教育勅語の精神を全世界に通用するものと位置づけて侵略的な思想を示し,侵略戦争の精神的支柱の役割を果たしてきた。
 このような教育勅語は,個人の尊厳を中核とし,国民主権,基本的人権の尊重,平和主義を基本原理とする日本国憲法と全く相い容れるものではなく,柴山大臣が言うような「アレンジした形で,今の道徳などに使える」ものではない。
 そのことは,1948年6月19日,衆議院で「教育勅語等排除に関する決議」が,参議院で「教育勅語等の失効確認に関する決議」がそれぞれ可決されている。特に衆議院における排除決議においては「これらの詔勅の根本理念が主権在君並びに神話的国体観に基いている事実は,明かに基本的人権を損い,且つ国際信義に対して疑点を残すもととなる。よって憲法第98条の本旨に従い,ここに衆議院は院議を以て,これらの詔勅を排除し,その指導原理的性格を認めないことを宣言する。」ことが確認され,教育勅語の「根本理念」が基本的人権を損い憲法に反するものであることが確認されている。加えて,教育勅語の一部の徳目をとりだして評価することについても衆議院における排除決議において「それを教育勅語のわくから切り離して考えるときには真理性を認めるのでありますけれども,勅語というわくの中にあります以上は,その勅語そのものがもつところの根本原理を,われわれとしては現在認めることができないという観点をもつものであります。」(松本議員による決議案の趣旨説明)とされ明確に否定されている。
 今回の柴山文科大臣の教育勅語の徳目をアレンジして道徳教育に持ち込もうとする発言は,教育勅語の果たしてきた役割,根本理念を無視し,過去の過ちに目を背ける時代錯誤の認識であるばかりか,日本国憲法の基本原理や国会決議を軽視するものであって,教育勅語を排して制定された教育基本法の下で教育行政の任に当たるものとして適格性を欠くことは明らかである。
 自由法曹団東京支部は,柴山文科大臣の発言に強く抗議し,自発的な辞任を求めるとともに,安倍内閣総理大臣に対し文科大臣として不適格な柴山氏を罷免することを求める。

2018年10月10日
自由法曹団東京支部
支部長 小部正治
 
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