自由法曹団 東京支部
 
 
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団支部の活動紹介

新宿区の「デモの出発地として使用できる公園の基準」見直しに反対し、直ちに新「基準」の撤回を求める声明

  1.  新宿区は、2018年6月27日開催の環境建設委員会において、区立公園の使用許可にかかわり従前用いられてきた「デモの出発地として使用できる公園の基準」(以下、「基準」という。)を見直し、新たな基準を用いることを表明した。
     従前の「基準」では、デモの出発地として使用できる公園は、@住宅街にないこと、A公園面積が1000u以上、B100u以上の広場があること、という条件が付され、区内4か所の公園(新宿中央公園、柏木公園、花園西公園、西戸山公園)がこれに該当するものとして市民の利用に供されてきた。今般、住宅街に加え、「学校・教育施設および商店街に近接していないこと」が条件に付加され、これにより新宿区内で市民のデモの出発地点としての利用に供することができるのは新宿中央公園1か所のみとなった。新基準の運用開始は2018年8月1日からとのことである。
  2.  今回の基準見直しは、公園使用の過度な規制であり、極めて大きな問題がある。
     これまで新宿区立公園条例第3条1項は、デモや集会のような「宣伝的行為」のための区立公園の利用について、あらかじめ区長の許可を得なければならないとし、同条4項は、「公衆の公園の利用に支障を及ぼさないと認める場合に限り」許可を与えることができるとしている
     地方自治法第244条1項、2項は、「普通地方公共団体は、住民の福祉を増進する目的をもつてその利用に供するための施設(これを公の施設という。)を設け」、「正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならない。」としている。また、同条3項は、「普通地方公共団体は、住民が公の施設を利用することについて、不当な差別的取扱いをしてはならない。」としている。
     公園は、典型的な公の施設であり、伝統的に、集会やデモ行進の集合・出発地点として用いられてきたパブリック・フォーラムである。それゆえ、その利用は原則として認められるべきであって、これを正当な理由なく制約することは、憲法の保障する表現の自由及び集会の自由の不当な制限となる。
     したがって、公園の一時使用申請について許可をするに当たっては、その公の施設及びパブリック・フォーラムとしての性質に鑑み、原則としてこれを許可しなければならず、申請を拒否することができるのは、利用者の希望が競合する場合のほかは、施設を利用させることによって、他の基本的人権が侵害され、公共の福祉が損なわれる危険がある場合に限られるというべきである(最判平成7 年3月7 日民集49巻3号687頁、日比谷公園の使用不許可処分にかかる日本弁護士連合会2012年(平成24年)11月9日付会長声明参照)。
     よって、新宿区立公園条例第3条4項の「公衆の公園の利用に支障を及ぼさないと認める場合」に限り公園の利用を許可するという規定自体、こうした観点から厳格に解釈されなければならない。
  3.  今回、新宿区は、新「基準」を設ける理由として、「デモ件数の増加」及び「地域からの要請」として「頻発するデモによる周辺の交通制約や騒音により迷惑しているため、公園周辺町会や商店会からデモを制限してほしい旨の要望」があったことを挙げている。
     しかし、公園がデモの出発点や集会に利用される場合、騒音が生じることは不可避的であり、それが近隣住民の迷惑にとどまる限り、憲法上保障された表現の自由の権利行使を制限する根拠とはなりえない。そもそも、デモ行進自体、かかる表現行為を通じて社会にその問題を知らしめ、政治的意思表示を行うことで社会を改善するためのものであり、騒音を理由に規制することは表現行為を禁止するに等しいものである。
     また、同条例3条4項は、公園の利用を制限する理由を「公衆の公園の利用に支障を及ぼさない」ことに限定していることからすれば、「周辺住環境等への配慮の観点」を根拠として公園の利用を制限すること自体、同条例3条4項に反している。
     さらに、公園の利用とデモによる周辺の交通規制は直接関係のないものであり、公園を出発点とするデモによって、デモ行進時に周辺道路の交通規制が生じることは、「公園の利用」を制限する正当な事由たりえず、「公衆の公園の利用に支障を及ぼす」場合に当たると解することはできない。
     加えて、騒音や交通の制約は一時的なものであり、これにより近隣住民等の「基本的人権が侵害され、公共の福祉が損なわれる危険がある場合」に当たるとは到底思われない。
     以上のとおり、日本国憲法21条が保障する表現の自由、集会の自由、地方自治法244条1項2項、新宿区公園条例3条4項からしても、今回の新「基準」による公園の利用制限が許されないことは明らかである。
  4.  もともと、新宿区では、公園を利用するデモの中で、大音量を伴うヘイトスピーチデモ等、表現の自由の保障の下でも差別表現及び妨害行為を行なう者が増え、それが近隣住民に迷惑をかけていた事情がある。これらのヘイトスピーチこそ、対象となった人々を恐怖に陥れ、周辺住民にも不安を与えるものであり、これを規制する必要性があった。にもかかわらず、新宿区は、ヘイトスピーチの規制について区議会等で指摘を受けていながら、ヘイトスピーチ解消法において地方公共団体に求められるヘイトスピーチ解消に向けた施策を講じてこなかった。
     ヘイトスピーチに対する規制については、すでに東京弁護士会が2018年6月8日付「地方公共団体に人種差別撤廃条例の制定を求め、人種差別撤廃モデル条例案を提案することに関する意見書」で指摘し、川崎市が「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律に基づく『公の施設』利用許可に関するガイドライン」を設けて実践しているように独自の対応が可能である。
     今回の新「基準」は、デモの出発地として公園の利用自体を認めないという形で、何ら問題のない平和的なデモも含め一律に制約するものであり、憲法21条1項が保障する表現の自由に対する不当な制約であり、断じて許されるものではない。
  5.  以上のとおり、新宿区による「基準」見直しは、ヘイトスピーチなど規制すべき違法な表現は放置する一方、平和的に行われるデモ等の表現の自由をも一律に規制するという、表現の自由に対する配慮を著しく欠いたものである。かかる新「基準」が定められることによって、デモ自体を実施することが困難となり、適正な表現活動である政治活動、労働運動、住民運動が制約されることが強く懸念される。
     よって、私たち自由法曹団東京支部は、新宿区に対し、新「基準」の撤回を強く求める。
2018年6月29日
自由法曹団東京支部
支部長 小部 正治
 
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