自由法曹団 東京支部
 
 
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団支部の活動紹介

労働者を保護する働き方改革を求め,安倍「働き方改革」一括法案に反対する決議

  1. 安倍首相は,2018年1月22日の施政方針演説において「『働き方改革』を断行することを表明し,同一労働同一賃金の実現,長時間労働の慣行の打破,新たな働き方を謳い文句にして,2017年9月15日に法律案要綱として確定した「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」(以下「本要綱」という。)に基づき「働き方改革」の言葉のもとに,立法目的・制度趣旨の異なる8本もの法案の改正について今国会において一括審議で行おうと目論んでいる。
     まず,このような一括法案とする意図は,個々の「改革」の問題点が争点として顕在化して国民に周知される前に,法案の成立を推し進めようとすることにある。一つ一つの法律案ごとに丁寧な審議を行い,採決も改正法律案ごと個別に行わなければならず、一括法案の国会提出は断じて許されない。

  2. 「本要綱」による改正では,同一労働同一賃金の実現が謳われているが,格差の不合理性を判断する際の考慮要素に「職務の内容及び配置の変更の範囲」が含まれており,キャリアコースの違いによる待遇差・格差の固定化を助長する危険性が極めて高い。また,格差の不合理性に関する立証責任の所在が不明確であり,「不合理とまでは認められない」場合の不利益を労働者が負う恐れがある点は看過することはできない。さらに,差別的取り扱い等の禁止に違反した場合の法的効果も明記されていない。差別的取り扱い等による労働条件の定めは無効として,差別的取り扱い等がなかった場合の合理的な労働条件となる補充的効力を明記する法改正がなされなければならない。
     そもそも,不安定かつ低待遇の派遣労働は入口規制が徹底されなければならないが,本要綱による改正には,その問題意識が全く欠落している。2018年には多くの有期契約労働者が労働契約法18条による無期転換権を取得することが見込まれる。転換後の不合理な格差を是正するための政策・立法の実現は急務である。真に「同一労働同一賃金」を実現するための明確かつ実効性ある施策・立法が実現されなければならない。

  3. 次に「本要綱」では,現行の時間外限度基準告示を法律に格上げし,青天井となっている残業時間に罰則付きの上限規制を設定することとされているが,その実態は,時間外労働と休日労働の時間を組み合わせることで,毎月80時間の年間960時間の時間外労働・休日労働を命じることも可能となるものにとどまる。過労死等の防止には全く実効性がないと言わざるを得ない。さらに,「本要綱」では,上限規制の適用の例外となる職種が多数設けられており,過労死防止の観点からは不十分な規制であり,長時間労働を打破するものとはなりえない。

  4. そして,「本要綱」では,高度プロフェッショナル制度の創設と企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大が謳われている。
     高度プロフェッショナル制度は,労働時間の適用を除外にして,1日24時間14日間の連続勤務すら可能とする制度である。このような労働時間規制の除外制度が一旦創設されれば,のちに対象が拡大されることは必定であり,導入は断固阻止しなければならない。
     さらに,「本要綱」では,企画業務型裁量労働制の対象業務に,従来は対象業務外とされてきた「課題解決型の提案営業」の類型を新たに追加し,極めて広範囲に拡大しようとしている。裁量労働制は,一定の労働時間を働いたものとみなす制度である以上,労働時間管理を疎かにする危険を内在し,使用者による悪用・濫用が強く懸念される制度である。
     安倍政権は,高度プロフェッショナル制度について,「時間によらず成果で評価する制度を選択できるようにする」ものであると宣伝するが,誤りである。現行法上も,成果報酬制度を選択することは可能である。また,安倍首相は,2018年1月29日の予算委員会において,「裁量労働制で働く方の労働者は,平均的な方で比べれば一般労働者より短い」などと強弁したが,その答弁の根拠がないことを野党に追及され,2月14日には答弁を撤回し陳謝するに至った。このような宣伝・答弁からしても,安倍政権が国民の誤解のもとに法案を押し通そうとしていることは明らかである。
     長時間労働を容認する高度プロフェッショナル制度と裁量労働制の拡大は即刻,撤回されなければならない。

  5. 加えて,厚生労働省は,2017年12月25日,「自営型テレワークの適正な実施のためのガイドライン(案)」を発表し,「新しい働き方・柔軟な働き方」として自営型テレワークなる働き方についての指針を示した。
     そこでは,自営型テレワーカーなる就労者は「労働者」ではないことが当然の前提とされており,労働法制の規制が及ばない就労者を労働力として利用することを目論んでいる。このような労働力の担い手を労働法制の適用がない者に転換させることは許されない。
     労務提供型のプラットフォームビジネスを含めた,新たな働き方については,法的拘束力がないガイドラインの遵守を企業に求めるというだけの施策は極めて不十分な対応であり,「働き手」の安定した就労及び生活を確保されるよう法規制を速やかに行われることこそが求められる。

  6. このような安倍政権が今国会において成立を目指している「働き方改革」一括法案は,リストラと労働強化を促進し,非雇用型の働き方を拡大し,過労死と格差の固定化を容認する法案であり,労働者の権利・利益保護に反するものであり「働かせ方改革」ともいうべきものであって到底容認できない。
     私たち自由法曹団東京支部は,安倍「働かせ方改革」を断固阻止すべく,労働組合・市民運動と連帯して,安倍「働かせ方改革」の実態を分かりやすく周知し,安倍「働かせ方改革」を打破する世論をひろげて,人間らしく働くルールを確立すべく,全力をあげて奮闘する決意であることをここに宣言する。
2018年2月24日
自由法曹団東京支部第46回定期総会
 
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