自由法曹団 東京支部
 
 
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団支部の活動紹介

福島第一原発事故による被害の全面救済の実現を求める決議

  1.  2017(平成29)年3月17日,前橋地方裁判所は,福島原発事故による避難者等の被害者を原告とする訴訟において,被告国及び被告東京電力の賠償責任を認める判決を言い渡した。前橋地裁判決では,東京電力について,責任根拠を原賠法としつつも,遅くとも2002(平成14)年には,福島第一原発の敷地地盤面を優に超えて非常用電源設備を浸水させる程度の津波の到来を予見することが可能であり,2008(平成20)年5月には実際に予見していたとし,給気ルーバのかさ上げなどの結果回避措置をとれば,容易に福島原発事故を回避し得たにもかかわらずとして,これを怠ったとして,特に非難に値する事実が認められるとして,実質的に重過失の判断をした。そして,国について,遅くとも,2007(平成19)年8月頃には,被告東京電力に対して,結果回避措置を講じる旨の技術基準適合命令を発するなどの規制権限を行使すべきであったのに,これを怠ったことについて,炉規法及び電気事業法の趣旨,目的や,その権限の性質等に照らし,著しく合理性を欠くものとして,国家賠償法1条1項の違法性を認めている。
     このように前橋地裁判決は,司法の場において,福島原発事故について,国及び東京電力の加害責任を明確にし,断罪したものであり,その意義は,極めて大きい。
     今後,9月22日には千葉地方裁判所で,10月10日は福島地方裁判所でそれぞれ判決が予定されており,10月11日には福島地方裁判所いわき支部,10月25日には東京地方裁判所の訴訟がそれぞれ結審を迎え,年度内には判決が言い渡される見込みである。これらの訴訟においても,司法の場において,原発推進政策を続けてきた国及び東京電力の加害責任を明確に断罪する判決が続くことが期待される。

  2.  2011(平成23)年3月11日に発生した福島第一原発事故から既に6年あまりが経過した。  にもかかわらず、放射能で汚染された地下水が海へ流出し続けるなど、依然として事故の収束の目途は立っていない。未だ9万人近くの人々が避難を余儀なくされており、被災者の被った甚大な被害の原状回復と完全賠償も実現されていない。
     これらの事実は、ひとたび原発に重大な事故が起きれば、人々の平穏な暮らしを喪失させ、それを取り巻く自然環境を破壊し、長期間にわたり深刻かつ甚大な被害をもたらすことを如実に物語っている。
     福島第一原発事故による放射能汚染状況は行政区画とは無関係に福島県内だけでなく東日本の広範囲に広がっている。にもかかわらず,政府は,地域や生活の実態を詳細に見ることなく,住民を行政区画や地域で分断し,一方的に,補償,復興施策や帰還政策の「線引き」を行ってきた。このような対応は,被災者ひとりひとりの実態を無視し,被害者を「差別」と「分断」を進めるものであり容認することはできない。速やかに行政区画による官僚的,画一的な対応ではなく,被災実態に即した対応に改めることが必要である。
     また,国は,「除染」を実施し、「避難指示解除準備区域」と「居住制限区域」について「安全が回復された」として一方的に「安全」を押しつけ帰還を強制してきた。除染の結果,放射能汚染がどれだけ低減されたかを問うことなく避難区域指定を解除し「帰還可能」として,補償の打ち切りを結びつけることを通じて避難者に「帰還」を強制してきたのである。このような「帰還」強制政策は直ちに中止し,全ての被災者に,避難の必要と合理性を認め,その実態に合った賠償が継続・徹底されなければならない。
     特に,福島県及び国は,2017年3月末日をもって,指定区域外の避難者へに対する災害救助法に基づく住宅供給措置の打ち切りを強行した。避難先での住宅は避難者の生活の場であり,住宅を失うことは生活そのものが破壊されることであり,人として「生きる権利」を奪う暴挙であるというほかない。このような加害者である国や東京電力が被害者を蹂躙するような動きは,到底許されるものではない。

  3.  国や東京電力の加害責任が司法の場においても明らかとなった今,国や東京電力が行うべきは,被害者の切り捨てではない。求められるのは,原発事故の過酷な被害実態を踏まえた賠償の実現及び生活圏の原状回復を含む生活再建のための諸施策の実施である。
     私たち自由法曹団東京支部は,国及び東京電力に対し,福島第一原発事故がもたらした深刻かつ甚大な被害に対して,被害者が原発事故前のくらしを取り戻すための原状回復措置をとること及び被害に対する完全賠償を行うことを求める。さらに,国に対して,その加害責任を明確にし,被害救済の実現でなく切り捨てに繋がっている福島復興再生特別措置法や福島原発事故子ども・被災者支援法の改正をはじめ,すべての原発事故被害者の生活再建のための新たな立法の制定・施策の実施を求める次第である。
     私たちは,そのためのたたかいに全力を傾注することを決議する。
2017年7月19日
自由法曹団東京支部幹事会
 
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