自由法曹団 東京支部
 
 
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団支部の活動紹介

晴海オリンピック・パラリンピック選手村敷地譲渡契約の正常化を求める決議

  1.  東京都は、2016年12月5日、大手デベロッパー11社との間で、晴海オリンピック・パラリンピック選手村敷地譲渡契約を締結した。
     譲渡された土地は、晴海5丁目西地区にあり、都心部と臨海副都心を接続する位置にあり、東京駅から3〜4qの距離にある13万3906.26uの広さの土地である。もともと東京都が単独所有している都有地であった。
     この土地上に2020年開催予定のオリンピック・パラリンピックの選手村が建築されることとされ、民間事業者(特定建築者)が建築してその建物を大会組織委員会が賃借料38億円を上限として賃借し、大会終了後は民間事業者(特定建築者)が超高層タワーを含む合計24棟の高層住宅に転用して分譲するプランが計画された。この計画を実現するため、選手村の整備は東京都による個人施行の第1種市街地再開発事業によることとされ、特定建築者となったのが、敷地譲渡を受けた大手デベロッパー11社である。これらの会社を譲受人として、施行者である東京都と総額129億6000万円で本件の土地の所有権譲渡契約が締結されている。1uあたり100万円とも言われる周辺相場からすると約1300億円の都有地が9割引きの金額で譲渡されたことになる。

  2.  本件では、東京都が敷地の単独所有権者、施行者、認可権者という1人3役、個人施行の第1種市街地再開発という手法により脱法、違法な行為が行われている。
     まず、売買について条例又は議会の議決(地方自治法237条1、2項)もなく、適正な価格であるかどうかについて東京都財産価格審議会における評価(東京都財産価格審議会条例第2条1項)もなされていない。
     さらに、特定建築者の手法が用いられた結果、一般競争入札(地方自治法234条)も行われていない。
     このように晴海オリンピック・パラリンピック選手村建築は、再開発の手法により、地方自治法による規制を潜脱しているだけでなく、都市再開発法の規定をも脱法したものといわざるを得ない。
     加えて、土地の単独所有者である東京都は、権利変換において建物の床などの権利を取得しないこととし、転出申出したが、失われる土地の価格は権利変換期日における近傍類似の土地の取引価格を考慮して定める相当の価格とされる(都市再開発法80条)ところ、土地所有者の同意による80条の適用除外規定((同法110条)を利用して、80条の規制を脱法しているのである。
     1人3役、権利者が1人ということで再開発法の手続の適正をはかるべき規制が全く機能していない中で、市場価格の1割程度の129億6000万円の売却価格が適正であることについて、東京都は、オリンピック・パラリンピックの選手村としての仕様としなければならないこと、オリンピック、パラリンピック開催後に売却となることから売却までに一定の日数がかかることなどとしているが、いずれも9割減額する理由となっているものではない。

  3.  自由法曹団東京支部では、2015年9月30日、新国立競技場の建設費用の見直し、公式エンブレム問題に対して、これらは、開発優先の行政や商業主義を優先させた組織委員会の運営が、五輪本来の姿をゆがめており、安倍政権が2020年東京五輪をアベノミクスの“第4の矢”と位置付け、オリンピックを好機として「東京大改造」を財界、ゼネコンと一体となって推進していることにあることを指摘し、2020年東京オリンピック・パラリンピックについて、巨大開発と税金の無駄づかいの流れにストップをかけ、裕福な都市・国でなくても開催が可能な大会、ひとにぎりのトップアスリートのオリンピックから「スポーツ・フォア・オール」への転換、巨大開発から環境に優しい「持続可能」な社会への転換めざす大会にすることを求める決議を行った。
     今回の、選手村敷地の不当な低廉価格での売買も開発優先の行政によるオリンピックを口実とする財界、ゼネコンと一体となった巨大開発にほかならない。
     都民の財産である都有地が周辺相場の約10分の1という不当に廉価で売買契約がなされたことに関して、都有地の違法、不当な低廉価格による売却処分による損害を回避又は補填するために必要な措置を講じることを都知事に勧告するよう住民監査請求をした。これに対し監査委員会は、請求人の主張には理由がないとの判断を下した。請求人らは住民訴訟を提起し司法判断を求める。なお,本件監査結果でも「意見」として、本件事業で個人施工の再開発事業として実施することについて「中立的かつ公正な監視や牽制の下で行われないとの懸念を生む状況が生じた」とその問題点を指摘し「通常以上の対応が求められる」と付言されていることは特筆すべきである。
     自由法曹団東京支部は、民主主義と人権を擁護する法律家団体として、東京オリンピック・パラリンピックを口実として巨大再開発事業が、法を潜脱し、脱法的な手法によって押し進められ、都民の財産である都有地を不当低廉な価格で売却することによって、都民の財産を一部の大企業に取得させることについて強く抗議するとともに、売却価格決定の過程を明らかにすることを求める次第である。
以上

2017年7月19日
自由法曹団東京支部幹事会
 
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