自由法曹団 東京支部
 
 
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団支部の活動紹介

教育勅語の内容を肯定し学校教育の教材として用いることを容認する安倍内閣の閣議決定に抗議し、撤回を求める

第1 安倍内閣は教育勅語の内容を肯定し学校教育の教材として用いることを容認した

  1. 教育勅語に関する安倍内閣の閣議決定及び一連の発言
     2017年3月8日、稲田防衛大臣は参議院予算委員会において「教育勅語の精神であるところの、日本が道義国家を目指すべきである、そして親孝行ですとか友達を大切にするとか、そういう核の部分ですね、そこは今も大切なものとして維持をしている」「教育勅語に流れているところの核の部分、そこは取り戻すべき」などと教育勅語の内容を肯定する発言をした。
     同月31日、安倍内閣は「学校において、教育に関する勅語を我が国の教育の唯一の根本とするような指導を行うことは不適切であると考えているが、憲法や教育基本法等に反しないような形で教育に関する勅語を教材として用いることまでは否定されることではない」との答弁書を閣議決定した。
     同年4月3日、菅内閣官房長官は記者会見において「親を大切にするとか、兄弟姉妹仲良くするとか、友達はお互いに信じあうなどといった項目もあることも事実でありまして、憲法や教育基本法に反しないような適切な配慮のもとで取り扱うことまで否定することはない」と発言し、徳目について肯定的にとらえ、教材として用いることを容認した。
     同月4日、松野文部科学大臣は記者会見において「道徳を教えるために、教育勅語のこの部分を使ってはいけないというふうに私が申し上げるべきでもない」と述べ、道徳を教えるための教材として用いることを否定せず、許容した。
     同月7日、義家文部科学副大臣は衆議院内閣委員会において、幼稚園で園児に教育勅語を毎朝朗唱させることについて「教育基本法に反しない限りは、問題のない行為」と述べ、批判能力が十分でない幼稚園児に対する毎朝の朗唱という繰り返しのすり込みを肯定した。
  2. 安倍内閣の閣議決定の意図するもの
     教育勅語を教材として用いることまでは否定されない旨の閣議決定に関し、義家文部科学副大臣は4月7日の衆議院内閣委員会で、教育勅語が歴史の教科書に載っていることを強調する答弁を繰り返した。しかし、上述の一連の発言から明らかなように、安倍内閣の閣議決定は、単に歴史上の事実を知識として学ぶための教材という位置づけではない。
     教育勅語の徳目について肯定的にとらえたり、批判能力が十分でない幼稚園児に対する繰り返しのすり込みを肯定したりしていることからしても、安倍内閣の閣議決定の意図するところは、教育勅語の内容を肯定し学校教育において教材として用いることを容認するものと言わざるを得ない。
     加えて、国政における重要事項についての態度表明である閣議決定により学校教育において教材として用いることを容認する姿勢を示したことからすれば、学校教育の場で再び教育勅語を重要なものとして広げることへの積極的な姿勢がうかがわれる。
     かかる姿勢は、安倍内閣が閣議決定した答弁書の中であえて「唯一の」と限定をかけて「不適切」と表現し、「唯一の根本」としなければ、根本とするような指導を行うことは可能だととることができるような曖昧な表現を用いていることにも端的にあらわれている。

第2 安倍内閣の閣議決定は、憲法に反するとともに、国会決議を踏みにじるものである

  1. 教育勅語の役割
     教育勅語は、天皇制国家確立のため、忠君愛国、滅私奉公を最高の道徳として1890年に勅語の形式で発布された道徳的統一原理である。徳目の締めくくりは「一旦緩急アレハ義勇公ニ奉ジ以テ天壌無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ」、すなわち「万一危急の大事が起ったならば、大儀に基づいて勇気をふるひ一身を捧げて皇室国家の為につくせ。」(文部省図書局、教育に関する勅語の全文通釈)とされ、天皇に命を捧げることが求められ、各徳目も天皇に命を捧げるために位置づけられていた。この点、教育勅語の官定版解説書である「勅語衍義」では、より明確に「世ニ愉快ナルコト多キモ、眞正ノ男子ニアリテハ、國家ノ為メニ死スルヨリ愉快ナルコトナカルベキナリ」として、国家のために死ぬことが最も重要であることが強調されている。
     また、教育勅語では「中外ニ施シテ悖ラス」とし、教育勅語の精神を全世界に通用するものと位置づけて侵略的な思想を示し、侵略戦争の精神的支柱の役割を果たしてきた。
  2. 基本的人権を損う教育勅語の根本理念
     かかる教育勅語は、個人の尊厳を中核とし、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義を原理とする日本国憲法と全く相い容れないものである。そのため、1948年6月19日には衆議院で「教育勅語等排除に関する決議」が可決され、参議院で「教育勅語等の失効確認に関する決議」が可決された。
     特に衆議院における決議では「思うに、これらの詔勅の根本理念が主権在君並びに神話的国体観に基いている事実は、明かに基本的人権を損い、且つ国際信義に対して疑点を残すもととなる。よって憲法第98条の本旨に従い、ここに衆議院は院議を以て、これらの詔勅を排除し、その指導原理的性格を認めないことを宣言する。」とし、教育勅語の「根本理念」が基本的人権を損い憲法に反することが明確に示された。
     この点、教育勅語の一部のみを取り出して評価することについて、衆議院における決議案の趣旨説明の際、松本議員は「それを教育勅語のわくから切り離して考えるときには真理性を認めるのでありますけれども、勅語というわくの中にあります以上は、その勅語そのものがもつところの根本原理を、われわれとしては現在認めることができないという観点をもつものであります。それが憲法第98条にも副わないゆえんでありまするので、この際この条規に反する点を認めまして、われわれはこの教育勅語を廃止する必要があると考えざるを得ないわけであります。」と述べ、部分的に評価することを明確に否定している。
     安倍内閣では、教育勅語の一部の徳目を肯定的に評価する発言をしているが、これは過去の決議によって明確に否定されているものである。「根本理念」が否定されているとおり、各徳目が天皇のために命を捧げることに結びつけられており、実際、内閣官房長官が指摘した「親を大切にする」という徳目も、教育勅語の官定版解説書である「勅語衍義」で、「国君ノ臣民ニ於ケル、猶ホ父母ノ子孫ニ於ケルが如シ、即チ一国ハ一家ヲ拡充セルモノ」と説明されているとおり、天皇と「臣民」の関係を父母と子孫の関係と同一視し、天皇に対する忠孝を求めていたものである。
  3. 憲法の理念実現の決意が込められた国会決議
     衆議院における決議案の趣旨説明の際、松本議員は「従来の封建主義的、軍国主義的、超国家主義的な、そういった理念、精神から、個の尊厳を確認しますところの民主主義的な精神の切替え、改革といったようなものが、まだまだ十二分にはなされていない。世界の水準にもなお達していないということは、遺憾ではありますが、事実と言わなければならないのであります。」「民主化の停滞性が現われておるといって間違いはないのであります。」と述べている。その上で、「民主的な精神内容を国民一人々々が正しく把握し、もって理想とする平和国家」の実現のために「何よりも教育によることが本質的に必要」とし、教育勅語に対する措置が「きわめて消極的でありまして、徹底を欠いている」ことを問題として指摘している。
     決議案は異議なく可決され、森国務大臣は「教育勅語は明治憲法を思想的背景といたしておるものでありますから、その基調において新憲法の精神に合致しがたいものであることは明らかであります。教育勅語は明治憲法と運命をともにいたすべきものであります。」と指摘した上で、教育勅語の謄本が学校に保管されていることについて「将来濫用される危険も全然ないとは申されません」とし、「本決議の精神の実現に万全を期したい」と述べている。
     衆議院における廃除決議は、教育勅語の根本理念が基本的人権を損い憲法に反するものであり、教育勅語が民主化を妨げていることを踏まえ、個人の尊厳を中核とする日本国憲法の理念の実現のために、教育勅語を徹底的に排除し、そのために万全を期す決意が込められたものである。
  4. 国会決議を踏みにじり、重大な憲法違反をする安倍内閣
     それにもかかわらず、安倍内閣が教育勅語の内容を肯定し学校教育において教材として用いることを容認することは、日本国憲法の理念の実現を進める決意のもと行われた両院の国会決議をいずれも踏みにじるものである。
     また、教育勅語の根本理念が基本的人権を損うものである以上、これを肯定的に評価することは、憲法尊重擁護義務(憲法99条)違反であって断じて許されない。
     さらに、国会決議にあたり、教育勅語の根本理念に照らし教育勅語を部分的に評価することが明確に否定されたにもかかわらず、一部の徳目について肯定的に評価する発言は、教育勅語の果たしてきた役割、根本理念を無視し、過去の過ちに目を向けないものであり、この点も厳しく批判されなければならない。

第3 安倍内閣の閣議決定に強く抗議し、即時の撤回を求める

 以上のとおり、安倍内閣の閣議決定は、教育勅語の内容を肯定し学校教育において教材として用いることを容認するものであるところ、これは重大な憲法違反であるとともに両院の国会決議をいずれも踏みにじるものであって断じて許されない。
 自由法曹団東京支部は、教育勅語の内容を肯定し学校教育において教材として用いることを容認する安倍内閣の閣議決定に強く抗議し、即時の撤回を求めるものである。

2017年5月15日
自由法曹団東京支部
支部長 小部正治
 
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