自由法曹団 東京支部
 
 
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団支部の活動紹介

中央卸売市場の築地から豊洲への移転について中止および真相究明を求める決議

 現在、中央卸売市場の築地から豊洲への移転の問題が、都政を揺るがす大問題となっている。大きく分けると、第一に、生鮮食料品をあつかう市場の安全や人の健康被害に関わる土壌汚染の問題と、第二に費用の高騰と異常入札の2つである。

  1. 土壌汚染について
     築地市場は、1935年に開場したが、老朽化対策の整備のため、1991年から現地再整備に向けて工事が始まっていた。ところが、2001年2月に、石原慎太郎知事(当時)が施政方針演説で中央卸売市場の移転は東京ガスの豊洲工場跡地(以下「豊洲」という)を候補地にすると表明した。当時から、豊洲は環境基準の1500倍の発がん性物質ベンゼンや490倍のシアン化合物など高濃度の有害物質で汚染されていたことが明らかになっていたが、浜渦副知事(当時)が交渉に乗り出し、東京ガスから買収したのである。
     都がつくった有識者らで構成する専門家会議と技術者会議のもとで行った土壌汚染調査は杜撰なものであった。水を通さない粘土層の下は汚染の可能性は低いとして、その部分の調査をしなかったのに、同会議の解散後に粘土層がないところがあることが分かり、その後の調査で汚染が広がっていたことが発覚した。また、豊洲では、東日本大震災時に、108箇所で液状化による噴砂・噴水が発生し、汚染が拡散した可能性が高いにも拘わらず、技術者会議の委員が「汚染土壌の移動は考えにくい」と決めつけ、都はそれを根拠に調査を実施しなかった。
     しかし、近時の地下水モニタリング調査では、青果棟の敷地3箇所で、環境基準の最大1.4倍のベンゼン、1.9倍のヒ素を検出した。従って、土壌汚染対策法に基づき、二年間のモニタリングの再検査を行わなければならない。
     さらに、再招集された専門家会議による10月15日の都への報告によると、青果棟の地下空間の大気中から、基準の最高7倍の水銀を検出した。
     土壌汚染対策工事も杜撰であった。主要な5箇所の建物の下(敷地全体の4割強)について、専門家会議で提言された土壌汚染対策の盛り土がされておらず、空洞になっていた。この提言に反した工事を「いつ、だれ」が決めたのかは都の調査では明らかになっていない。
     都環境局に提出された法定の環境影響評価(アセスメント)は盛り土を前提として評価したものであるから、「盛り土なし」での環境影響の再評価が必要となる。
     さらに、上記の有害物質が地下水から揮発してガスとして上昇しないように地下水を浄化する地下水管理システムは、維持水位を海抜1.8mにするはずであったが、実際には平均4mに達しており、機能していない。海抜2mより上の盛り土層が汚染地下水に浸かって再汚染が起こっていると考えられる。
     しかも、この地下水管理システムの設計を委託された日水コンは、見積参加条件であった実験研究施設を有しておらず、地下水流動解析をおこなう実験装置もなく、実際に実験も行っていない。地下水管理の実績もなく、不適格業者と考えざるを得ない。
     このような状況のもと、豊洲移転では、東日本の台所と言うべき中央卸売市場における食の安全と健康を確保することは極めて困難である。
  2. 費用の高騰と異常入札
     東京ガスが都に豊洲を売却する際、東京ガスは土壌汚染の「拡散防止工事費用」として78億円を負担しただけで、土地は土壌汚染がないものとして1850億円で売却した。東京ガス関連企業が実施するはずだった周辺の防潮護岸工事は、都が212億円も負担することになった。
     こうして、東京ガスが莫大な利益を得た一方、都は土壌汚染対策に858億円、新市場建設費などと合わせると、これまで6100億円近い財政支出を行い、借金の利息370億円など、今後も負担が膨らむことになった。とりわけ、建設費は、当初計画の990億円から2747億円へと2.8倍にも膨れあがった。
     施設建設工事(2014年2月〜16年2月)では、主要三施設である青果棟は鹿島建設JV(共同企業体)、水産仲卸売場棟は清水建設JV、水産卸売場棟は大成建設JVが、それぞれ予定価格に対する落札額の比率99.96%、99.88%、99.79%で棲み分けて落札した。その他の施設も含めてこれら大手ゼネコン3社が9件、予定価格公表後の1社入札を行っていた。それ以外にも1社入札が20件あった。
     本来、不特定多数が参加する一般競争入札で工事費の引き下げを図るべきなのに、都はそれを行わず、建設費の高騰を招いた。他方で、都OBのゼネコン17社への天下りは67人に上っており、都とゼネコンの癒着の疑惑がある。
     また、上記の日水コンは、地下水管理の実績がないにも拘わらず、10件総額2億6820億円にも上る地下水管理システムの業務を、一般競争入札を経ない特命随意契約で受注した。
  3. まとめ
     上記のほか、豊洲新市場は、環状2号線や補助315号線の道路で土地が分断され、野菜や果物と水産物の買い回りが出来ない、間口が狭いなど、市場の使用上致命的な欠陥がある。世界の築地ブランドを捨てて多くの問題が指摘される豊洲に市場を移転することについては、築地市場業者や労働者にとっても、経営や雇用の存続への懸念が深刻である。
     このような、食の安全と健康に有害で、巨額の都民の税金を一部の大企業の儲けにつぎ込む豊洲移転は重大な問題があり、環境影響評価や土壌汚染対策法上も直ちに移転することは不可能である。
     よって、自由法曹団東京支部は、住民自治と都民の生命、健康及び幸福追求の権利を擁護する法律家の立場から、さらなる土壌汚染調査と責任者の究明、異常な入札の解明、ひいては、中央卸売市場の築地から豊洲への移転の中止および豊洲施設の他の用途への変更を求めるものである。
2016年10月26日
自由法曹団東京支部 幹事会
 
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