自由法曹団 東京支部
 
 
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団支部の活動紹介

盗聴法の拡大と司法取引の導入を含む刑事訴訟法等の一括「改正」法案の廃案を求める決議

  1. 2015年9月25日、盗聴法(通信傍受法)の対象犯罪の拡大・手続要件の緩和と司法取引(「証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度」)の導入などを内容とする刑事訴訟法等の一括「改正」法案は、9月25日、参議院法務委員会で継続審査に付された。
  2. 当初、政府・与党は、法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」で日弁連から派遣された委員を含めた全員一致の答申や「可視化法案」と喧伝されていたことを背景に、僅か10時間程度の審議時間で衆議院を通過させて15年通常国会の序盤で成立させることを目論んでいた。
     しかし、冤罪被害者、冤罪被害者を支援してきた市民団体、刑事法学者、自由法曹団を含む法律家団体などが相次いで法案の危険性を訴え、これらの声に呼応するように18の弁護士会会長の反対の共同声明、4単位弁護士会の反対の声明が発表され、衆議院法務委員会では法案の徹底審議が余儀なくされた。
     その結果、衆議院法務委員会では、「可視化」、「司法取引」、「証拠開示その他」、「盗聴法」の4分野に分け、参考人質疑を含み総計68時間の審議が行われることとなった。
     審議の過程において、法案の問題点と危険性は次々に明らかにされ、民主党は、盗聴法について、対象犯罪の拡大を詐欺・電子計算機使用詐欺・恐喝に留め、立会人を不要とする制度設計は認めず、司法取引については、導入を見送るとする修正案を発表するまでに至った。
     ところが、自民・公明・民主・維新の4党で行われた「密室」での修正協議は、盗聴法の対象犯罪の拡大・立会人を不要とする暗号による盗聴の実施や、司法取引の導入はそのままに、盗聴法については、盗聴を実施された被疑者に対する不服申立ができることの通知の追加、司法取引については、弁護人の常時関与と検察官の考慮事項に事件の関連性を追加する等の微修正に止まるものであった。
     2015年8月7日、修正協議を反映した法案が衆議院で可決され、参議院に送付されたものの、参議院法務委員会では、法案の趣旨説明が行われたのみに止まり、具体的な審議に入ることなく継続審査に付された。
  3. 修正法案の主な問題点は以下の通りである。
     第1に、盗聴の対象犯罪の大幅拡大と立会人を不要とする暗号による傍受の実施は、捜査機関による盗聴の濫用を招き、犯罪とは無関係の一般市民の通信の秘密・プライバシーを侵害する機会を飛躍的に増大させるという危険性がある。不服申立権があることを通知したところで、かかる危険性を何ら払拭するものではない。
     第2に、法案が導入しようとする「司法取引」が、他人の犯罪を告白することで自己の刑責を軽くするという制度である以上、無実の者が罪を着せられる冤罪発生の危険は、弁護人が常時関与しようと無くなるものではない。
  4. 国民に対する監視と密告を奨励する盗聴法の拡大と司法取引の導入は、安倍政権が進める「戦争をする国づくり」における治安立法にあたることは明らかである。
     戦争法制を強行採決した安倍政権の描く絵図の完成を阻止するためにも、法案を今通常国会で廃案に追い込むことが不可欠である。
  5. 廃案にはならなかったとはいえ、通常国会での法案の成立を阻止したことは、私たちの運動の大きな成果である。法案の危険な内容を明らかにすればするほど、多数を頼んでの成立は困難になる。このことにまず確信を持とう。国会審議の経過はまた、法制審議会答申と一括法案が、市民的な基盤に基づくものではないことを示している。われわれは、政府・法務省及び日弁連など法制審に関わった関係者に対し、あらためて冤罪の根絶という原点に立ち返って、法案を撤回し、全面的な見直しに着手する立場に立つことを求めるものである。
     自由法曹団は、冤罪被害者、市民団体、さらには「戦争をする国づくり」に反対する多くの民衆と連帯して、今通常国会で刑事訴訟法等の一括「改正」法案の廃案をかちとるために尽力することを表明するものである。
2016年2月27日
第44回自由法曹団東京支部総会
 
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