盗聴法の拡大と司法取引の導入を含む 刑事訴訟法等の一括改正法案の廃案を求める決議
2015年10月28日
自由法曹団東京支部
支部長 須藤 正樹
- 盗聴法(通信傍受法)の拡大・要件緩和と「司法取引」(「証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度」)の導入などを内容とする刑事訴訟法等の一括改正法案(以下「刑訴一括法案」という)は、9月25日、参議院法務委員会で継続審議に付された。
当初、政府・与党は、2015年通常国会の序盤で成立させることを目指していたが、冤罪被害者、冤罪被害者を支援してきた市民団体、刑事法学者、複数の地方弁護士会が反対の声を上げることにより、衆議院法務委員会では法案の徹底審議がなされた。その結果、微修正された法案が衆議院で可決され、参議院に送付されたものの、参議院法務委員会では、法案の趣旨説明が行われたのみに止まり、具体的な審議に入らなかったのである。
しかし、次期通常国会では参議院で審議される可能性がある。
- 刑事訴訟法等の改正は、当初、冤罪防止、密室での虚偽自白の強要防止、警察の証拠ねつ造防止などを目的として検討が進められた。しかし、戦争立法が可決された今日、刑訴一括法案は、もともとの刑事司法改革の目的とはかけはなれ、現在導入が検討されている共謀罪と一体となり、安倍政権が進める「戦争をする国づくり」における治安立法として捉えるべきである。
戦争立法においては、電話会社は指定公共機関として国や自治体の機関(警察を含む)に協力させられる。そのもとで住民に対する監視と密告を奨励する盗聴法が実施され、共謀罪で逮捕起訴され、冤罪を産む司法取引がなされることになるのである。
- 国会審議を通じて、刑訴一括法案は、以下のとおり、冤罪や監視社会を増長させる危険性をはらむものであることが明らかになった。
第1に、盗聴の対象犯罪の大幅拡大と立会人を不要とする暗号による傍受の実施は、捜査機関による盗聴の濫用を招き、犯罪とは無関係の一般市民の通信の秘密・プライバシーを侵害する機会を飛躍的に増大させる危険性がある。
第2に、法案が導入しようとする「司法取引」が、他人の犯罪を告白することで自己の刑責を軽くするという制度である以上、無実の者を引っ張り込み冤罪を作出するという類型的な危険性を孕んでいる。他人の犯罪について何ら情報を持たない弁護人が常時関与し、検察官が犯罪の関連性を考慮したからといって、無実の者を引っ張り込むことによって発生する冤罪の危険性は拭い去れていない。
第3に、取調過程の録音・録画の対象事件がごく一部に限られた上、供述が得られそうになければ取調を録画しなくていいなどという濫用を許しかねない広汎な例外規定が設けられているという問題点は何ら変わっていない。
第4に、法案に含まれているビデオリンク方式による証人尋問の拡大、証人の住所・氏名の秘匿などは、刑事裁判の原則である公開主義・直接主義に関わる重大な改正点である。それにもかかわらず、衆議院法務委員会では審議の時間はほとんど確保されず、議論がなされないまま参議院に送付されている点も見過ごされてはならない。
- 戦争法制を強行採決した安倍政権の描く絵図の完成を阻止するためにも、次の通常国会で一括法案を廃案に追い込むことが不可欠である。
自由法曹団東京支部は、多くの冤罪や弾圧事件に取り組んできた法律家の団体として、冤罪被害者、市民団体、さらには「戦争をする国づくり」に反対して闘ってきた法曹界をはじめとする多くの人々と連帯して、次の通常国会で刑事訴訟法等の一括改正法案の廃案をかちとるために尽力することを、ここに表明するものである。