自由法曹団 東京支部
 
 
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団支部の活動紹介

開発優先・商業主義を改め、住民負担のない簡素な東京オリンピックを求める声明

2015年9月30日
自由法曹団東京支部
支部長 須藤 正樹
  1. 2020年東京オリンピック・パラリンピックでメーン会場となる新国立競技場の建設について、巨額の建設費用がかかるザハ案に対して、これまで、著名な建築家が見直し案を示し、住民をはじめ多くの人々が再検討を求めてきた。それにもかかわらず、本年6月には、下村文部科学相が基本設計時の1625億円を大きく上回る総工費2520億円もの巨額な建設費を公表した。日本スポーツ振興センター(JSC)の有識者会議もずさんな建設計画を「了承」(7月7日)、ザハ案の建設強行の姿勢を崩さなかった。
     これに対して国民・都民から、「なぜ財政赤字の日本が巨費を投じるのか」「あの屋根のスタイルでなければだめなのか」などいっせいに批判の声があがり、世論調査では「新国立競技場建設計画『見直すべき』は81%」(7月6日読売)に達した。
     その結果、8月17日、安倍首相は、「建設計画を白紙に戻し、ゼロベースで見直す」と表明した。
     これは、新国立競技場設計・建設に反対する圧倒的多数の世論に追いつめられた結果であり、住民・都民の世論とねばりづよい運動の成果である。
     だが、広大な人工基盤はそのままとされ、霞ヶ丘都営住宅の取り潰しになるほか、8万人基盤のスタジアムも温存される危険がある。
  2. また、本年8月上旬には五輪の公式エンブレムの盗作疑惑が浮上したが、組織委員会の森喜朗会長は、「間違いのない手続きをした」「(盗作でないという)絶対の自信を持って使っていく」と強弁し、国民からわき上がる疑念や批判に正面から向き合おうとしなかった。
     しかし、9月1日、五輪の公式エンブレムを作成した佐野研二郎氏は、自らデザインしたエンブレムが盗作だとは認めなかったものの、その展開例として示した画像に無断転用があったことを認め、エンブレムの使用中止が決定された。
  3. これらは、開発優先の行政や商業主義を優先させた組織委員会の運営が、五輪本来の姿をゆがめていることを意味する。
     すなわち、このような巨額の施設建設がまかりとおった背景には、安倍政権が2020年東京五輪をアベノミクスの“第4の矢”と位置付け、舛添都知事もオリンピックを好機として「東京大改造」を財界、ゼネコンと一体となって推進していることがある。
     また、エンブレムも商業主義を優先の基で大会組織委員会が決定したものである。
     これは「努力する喜び、良い模範であることの教育的価値」を尊ぶことが根底にあるオリンピック憲章とアジェンダ21・2020に反した動きである。
  4. 貧困と格差が拡大し、おおくの都民がきびしいくらしを余儀なくされている。そのもとでは、新国立競技場をはじめ、超高層ビルを建てて後利用のめどの立たない選手村を見直し、住民合意のもとに簡素で無駄のない計画をすすめることが必要である。
     とりわけ、新国立競技場については、当初の1300億円自体「異常」に高額である。1964年のオリンピックのレガシーである駒沢オリンピック公園および同所の競技場施設を改修して使えば、新しい競技場を造るよりも安価で済む。都民の貴重な財産である霞ヶ丘都営住宅の存続、伐採された樹木の回復、陸上開催に不可欠なサブトラックの設置、ノーマライゼーションの徹底、仮設観客席の活用など簡素で住民に過重な負担をもたらすことのない設計などが求められる。都民が普段使うテニスコートやソフトボール場を潰して新しい競技場を作るなどという、都民の生活やスポーツへのアクセスを悪化させる施策をとるべきではない。この間の経緯を含めて情報を全面的に公開し、官邸主導・トップダウン方式でなく、この間、積極的提案をおこなってきた建築家や市民・スポーツ団体、アスリート、競技団体など、国民・都民、関係者の幅ひろい参加と合意のもとにすすめることが不可欠である。
     また、10月10日が「体育の日」であったように、オリンピックは適切な季節で実施するべきであり、選手や観客の体調の観点から、猛暑の夏に実施してはならない。を考えれば時期を動かさなければ開催すべきではない。2008年の北京オリンピックでは開会式で観客等が500名以上熱中症で倒れている。
     さらに、オリンピックでのテロ対策を口実とした監視社会化の強化、ホームレスなど貧困者の排除も許してはならない。
     2020年東京オリンピック・パラリンピックについて、巨大開発と税金の無駄づかいの流れにストップをかけ、裕福な都市・国でなくても開催が可能な大会、ひとにぎりのトップアスリートのオリンピックから「スポーツ・フォア・オール」への転換、巨大開発から環境に優しい「持続可能」な社会への転換めざす大会にすべきである。
  5. 自由法曹団東京支部は、民主主義と人権を擁護する法律家団体として、東京オリンピックの在り方について、以上のとおり求めるものである。
 
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