自由法曹団 東京支部
 
 
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支部の意見書・声明[2013年]

特定の教科書を排除する東京都教育委員会の見解に抗議する


  1. 東京都教育委員会(以下「都教委」という)は、本年6月27日、「平成26年度使用都立高等学校用教科書についての見解」(以下「見解」という)を発表した。
     「見解」は、実教出版の教科書「高校日本史A」及び「高校日本史B」の中の、「日の丸・君が代」(国旗・国歌)の掲揚、斉唱に関する「一部の自治体で公務員への強制の動きがある」という記述について「都教育委員会の考え方と異なるものである」とし、この2つの教科書は「都立高等学校等において使用することは適切ではない」と表明した上で「この見解を都立高等学校等に十分周知していく」などとしている。
     かかる「見解」は、教育の自由、表現の自由などを侵害するおそれが強く、教育現場に対する不当な支配にあたるものであり、断じて容認できない。
  2. そもそも、教科書選定は、教育課程編成権に属するものであり、日々生徒と直接向き合い教育を行っている学校現場の意見が最大限尊重されるべきである。教員の地位に関する勧告(ユネスコ・1966年)でも「教員は生徒に最も適した教材および方法を判断するための格別の資格を認められたもの」とされている。これに対し、教育行政は、子どもが自由かつ成長することを妨げるような介入、例えば誤った知識や一方的観念を子どもに植え付けるような内容の教育を施すよう強制することは許されない(旭川学テ裁判:最高裁昭和51年5月21日判決)。とりわけ、高等学校は、学校教育法でも教育目標として「広く深い理解と健全な批判力を養」うことが掲げられており(同法51条3号)、戦後一貫して各学校が選んだ教科書が採択されてきた。教育行政が自己の一方的な見解を教育現場に押し付けることは断じて許されない。「見解」は、特定の教科書を排除することによって、都教委が日の丸・君が代を学校現場に強制している事実を生徒から隠蔽し、「都教育委員会の考え方」を一方的に押し付けるものであり、教育の自由を侵害する「不当な支配」(教育基本法16条1項)と言わざるを得ない。
  3. また、実教出版の「高校日本史A」及び「高校日本史B」は教科書検定に合格しており、都教委が問題とする記述を含めて、学習指導要領違反や事実記載に誤りがないことを文部科学省ですら認めている。教科書検定制度自体、教育の自由、表現の自由などを侵害すると強く批判されている。最高裁は教科書検定制度を合憲と判断したが、それとて、教科書検定基準が事前に定められていることを前提に、それが必要かつ合理的な範囲にとどまっているのか等の検討を経た上でなされている(第一次家永裁判:最高裁平成5年3月16日判決、第三次家永裁判:同平成9年8月29日判決)教科書検定に合格した教科書を、「都教委の考え方と異なる」などという恣意的な判断で採択から排除することなど、上記最高裁判決の趣旨からしても許されない。
  4. 昨年都教委は、実教出版「高校日本史A」の上記記述を問題視し、同教科書を採択しないように高校に執拗に電話をかけるなどの採択妨害行為を行った。これに対して都民からも強い批判の声が挙げられていた。都教委による「見解」はかかる都民の批判を無視し、都教委の見解なるものを、教育現場に明示的に押しつける行為であって断じて許されない。
  5. 以上のとおり、「見解」は、都教委が、自らの考え方と異なる主張を一方的に教育の場から排除しようする前代未聞の暴挙と言わざるを得ない。
     自由法曹団及び自由法曹団東京支部は、同「見解」に強く抗議し、撤回を求めるものである。

2013年7月10日
自由法曹団
 団 長  篠原  義仁
自由法曹団 東京支部
 支部長  宮川 泰彦

 
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