自由法曹団 東京支部
 
 
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支部の意見書・声明[2010年]

東京都青少年健全育成条例改定に対する抗議声明

2010年12月24日

 東京都は、本年12月15日の都議会において、青少年健全育成条例を改定した。
 その内容は、規制対象の表現が極めて不明確で曖昧であり、表現の自由を侵害ないし萎縮させるものであり、手続的にも拙速で創作・出版等にかかわる者の意見聴取や議論を十分に行っていない重大な瑕疵を含んでいるといわざるを得ない。

1 憲法21条の定める「表現の自由」は、表現を通して個人の自己実現を図るにとどまらず、その表現を通じて社会的・政治的な言論の理解を助け、あまねく世論に情報を伝達するという自己統治にも関連する重大な基本的人権であり、民主主義の根幹をなすのである。従って、その規制が憲法上許容される場合があるとしてもそれは必要最低限でなければならず、対象が漠然・不明確であったり、過度に広範な規制は憲法違反となるものである。
 しかるに、今回の青少年健全育成条例は、その規制対象が「・・・性交等を不当に賛美誇張するように描写している漫画等を」「・・・著しく社会規範に反する性交等を著しく不当に賛美・誇張するように描写しているものを」と規制者の判断が幾重にも入りこむ点で規制対象が漠然とし不明確であり、解釈を適当に拡大させることにより過度の規制を生じる危険が極めて高いと言わざるを得ない。この改定に対し、多くの青少年の表現過程に関与する作家・出版会社などが反対の意思表明をしたのも本条例に起因する表現への萎縮効果が高いことを危惧したからである。付帯決議として、上記規制の適用に際し、慎重な運用・適正な運用に努めるとされているが、このような言い訳的な付帯決議を付けたところで何らかの抑止力になると安易に期待することはできない。
 もちろん、青少年が購入・閲覧するのにふさわしくない図画が存在しており、年齢的な発展に応じて提供されるべき表現が存在することは、認められるとしても、しかしながら、その販売・閲覧そのものを規制することは、行政による表現の規制・制限に安易に道を開くことであり、一方、これまでも、図画の販売者による自主規制や販売の抑制等がそれなりに功を奏してきたところでもある。これらの努力を無視して、いわば「上から」「権力によって」表現を規制し抑制させようとすることは、表現の弾圧による自由な批判の抑圧、言論弾圧に容易に転化し、権力に迎合する表現ばかりが横行する結果を生じる。このような条例の改定は、戦争に至った過去の経験を全く理解せず、頭ごなしの権力的な政治を実施してきた石原都政の本性を露呈している。

2 また、東京都が本改定案を議会に提出したのが、議会開会日の直前の11月22日であり、まともに審議をする時間も与えられず、また、関係団体なども十分な意見聴取もされずに法案が秘密裏に作成された。この点議会では、「(2010年3月議会に提出した)従前の改定案と実質的に変わらない。」と釈明したが、そうであれば議会の構成も議員の交代も生じていない議会で審議する意味はないはずである。むしろ、表現の対象を「非実在青少年」から青年も含む人間全体に拡大した点で、規制の対象が拡大されたのであり、十分に審議する必要があったと言わざるを得ない。このような議会軽視・手続軽視のとの態度は民主主義を踏みにじり、都民を愚弄するものと言わざるを得ない。

3 また、「従前と同じ案」に対して、態度を反転させた都議会民主党の理解と節操のなさにはあきれる限りである。都議会民主党は、これまでも都立3小児病院の存続を2009年7月の都議会議員選挙で公約として掲げたにもかかわらず、選挙後は廃止に賛成し、築地市場の豊洲への移転についても移転土地獲得費用の予算計上に賛成するなど、背信的な公約違反を重ねている。都議会民主党は、都民への「約束」を遵守し、本条例が全面的に施行される2011年7月1日までに本条例を廃止するよう強く求める。

4 以上述べたように、本条例は内容的に表現の自由に対する制限としては、要件が曖昧であり不明確ゆえに無効と言わざるを得ない。また、手続的にも協議時間が短くかつ関係団体からの意見聴取なども極めて不十分であり、適正な手続にのっとっていないため、都民の意見を十分に反映していない。このような実体的にも手続的にも欠陥の多い条例は廃止するべきである。団東京支部は本条例の廃止に向け、諸団体と協力し、全力を挙げて取り組むものである。

以上
自由法曹団東京支部  支部長  藤本 齊

 
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