自由法曹団 東京支部
 
 
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団支部の活動紹介

日本国憲法の破壊を許さない力に

町田法律事務所 大森 典子


 第2次安倍内閣の成立から今日までに、ここまで歴史が逆行させられたか、と振り返ると信じられない思いである。敗戦後の貧しい生活の中でも、新しい日本をつくるのだ、という大人たちの息吹を感じながら成長した私たちの世代は、憲法や平和に特別の思いをもっている。私が弁護士になった昭和43年(1968年)ころは、憲法を武器に闘うということが普通に行われていた。朝日訴訟の朝日さんがそうであったように、憲法25条が「健康で文化的な生活」を保障しているはずなのに、この現実は憲法違反ではないか、という素朴な発想から朝日訴訟は始まった。おなじように教科書裁判も、基地訴訟も、憲法が国民我々の生活をよくする武器なのだ、そして2度と戦争の惨禍に見舞われないための闘いの旗印なのだ、という思いが満ちあふれていた。この空気の確信の一つは、日本の将来は我々の力でつくって行くのだという意識、そして二つ目にはあの戦争に突入した日本は世界のことが見えていなかった、という反省であったと思う。日本国憲法を読めば、そこには人類が長年闘って獲得してきた人権の内実を豊にふまえてそれをさらに前進させようという意欲が読み取れるし、何よりも9条の戦争放棄は国際紛争を武力によらないで解決するという新しい道筋を求めるチャレンジであった。
 こうした時代に、こうした憲法を使って家永訴訟や堀木訴訟や長沼ミサイル基地訴訟などを闘うという経験ができたことは本当に幸いだった、と思う。しかしあれから半世紀近くがたって、こうした時代を経てきたとは思えない「先祖返り」が濁流のごとくに起こっている現状に、私はいわば呆然としている。あの当時獲得した様々な成果はどこに行ってしまったのだろう、と思ったりする。
 考えてみれば、あの1960年代から70年代の頃は高度経済成長期にあって日本がある意味で自信や希望を持てた時期であったのに対して、今日本はアジアの新興国の勢いに押されて自信をなくしているのかも知れない。
 書店に並ぶ「嫌韓」「呆韓」「嫌中」などの書物をみると、他者をけなすことで自分の優位を自分に言い聞かせている、もの悲しい劣等感を感じてしまう。
 こういう時代にあって、あらためて思うことは、あの戦争の惨禍を経た市民がつくづく自覚した二つの点の重要性である。言うまでもなく第1には民主主義であり、第2には、日本が常に国際社会の中で信頼される地位を持つことの重要性、言い換えれば日本を世界から孤立させてはならないということである。今の安倍政権がやっていることはまさにナチが政権を取ったときのように国民のきちんとした理解や納得がないのに、この社会の基本ルールを転覆するようなことであり、日本を世界の常識からどんどん孤立へと導いている。つまり戦前社会への復帰にむけてひた走っているのである。しかしあの戦争とその後の新しい社会をつくろうとした時代を経験した我々市民は決して同じ道をたどらせてはならない。私自身について言えば、そろそろ人生の終わりに近づき残る力はほとんどないが、ここで何としてもこの流れをとめなければならないと思っている。
 若い団員の皆さんには、知識人として、また憲法と法律を武器に市民の生活をまもる職業人として、是非とも、今日本が向かおうとしている危険な方向について、警鐘を乱打し、抵抗して戴きたいと思うのです。

 
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