自由法曹団 東京支部
 
 
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若手弁護士へのメッセージ

東京本郷合同法律事務所 岡村 親宜


 私は、司法修習20期で、1968年に弁護士登録しました。約45年余弁護士活動をしてきました。私が、自分の経験から、団所属の若手弁護士に何かメッセージを記しても、どこまで受け止めてもらえるかわかりませんが、ともかく、弁護士登録以来今日まで、何を考え、どのように弁護士として生きてきたかを以下記して、若手弁護士のみなさんへのメッセージとします。
 私が入所させていただいた内藤功事務所は、所長が総評弁護団(現在の日本労働弁護団)の常任幹事であった個人事務所でした。労働弁護士を志した私は、事務所入所と同時に同団に入会し、同団を活動の基礎とさせていただきました。生活は、居候弁護士として、修習生時代とほぼ同額の賃金を保障していただき、事務所の事件を担当すると共に、他に自分の依頼者から事件を引き受け、報酬を取得することを認めていただき、その収入も加えて生活しました。
 皆さん!弁護士として何が基本的に第一に大切だと思いますか?私は、上記のとおりの開業でしたが、弁護士は、依頼者から事件の依頼を受け、着手金・報酬金の支払を受けることによってはじめて成り立つ生業であり、担当する事件が多ければ多いほど収入が増える生業ですから、それが成り立たたなければ、いかに高い志を抱き、そのために社会の役に立つ仕事をしたいと考えても、何もやることはできないと考えました。したがって、事件をいかに手際よく処理するかが、弁護士として第一に大切なことだと考えました。年齢を重ねた今でも、そのように考えています。
 そして、そのためには、担当する事件の書面は、できるだけ早め早めに依頼者と打合せ等をし、段取りを早めに組んで書面の作成、証拠書類の作成等をするよう努力しています。毎回、期日が差し迫ってやっと書面等の作成を間に合わせるようでは、新しい事件の依頼があっても、受任して適切な対応をすることができないからです。
 また、そのためには、裁判事件の場合は、できるだけ裁判所に出頭してもらい、事件の流れを理解してもらい、その都度必要な打合せ等をして本人から事件を進めるために必要な情報を提供してもらい、次回裁判期日への準備を早めに完了しなければなりません。それが庶民の金額が大きくない事件を、できるだけ沢山扱かう秘訣ではないでしょうか?
 しかし、弁護士の仕事は、職人的に事件をいかに手際よく処理したとしても、それでは持続的に弁護士として生きていくことはできません。皆さん!それでは、弁護士として何が第二に大切だと思いますか?金額の大きくない事件を取り扱った私は、手持事件数が増えていかなければ、弁護士として持続的に生きていくことは不可能であると考えました。現在も、事務所を経営して生きていくには、それに相当する事件数を持続的に受任しなければならないと考えています。したがって、弁護士として第二に大切なことは、新しい事件の依頼が来るように、より多くの方々との人間的交際をすることです。
 最低限、まず年賀状と暑中見舞いは友人、知人、親戚、知り合い等に毎年確実に出して、何かの法律問題があれば、相談が受けられるようにしておく必要があります。集団事務所では「事務所ュース」は送付していますが、弁護士一人一人は、年賀状と暑中見舞を出さない人がいると聞いたことがあります。が、依頼者は、自らが信頼する特定の弁護士に相談し、事件を依頼するのですから、「事務所ニュース」を送付していたとしても、弁護士一人一人も、年賀状と暑中見舞を出すのがベターではないでしょうか。もとより、弁護士一人一人が、年賀状と暑中見舞にいかなる内容を記載するかの工夫は必要です。
 また、私の若い時代は、弁護士の広告が禁止されていた時代でしたから、年賀状と暑中見舞が唯一の広告でしたが、現在では、事務所や弁護士個人のホームページを活用する方法も大切でしょう。しかし、依頼者が事件の依頼をするのは、その弁護士に対する信頼です。それは弁護士との面談・対話により成立しますから、弁護士はより多くの方々との人間的交際をしなければなりません。同窓会はもとより、本人の趣味の集まり等にも直接出向いて行き、雑用を引き受けることも大切だと思います。
 上記のような努力をしておれば、弁護士として安定した生活をおくることが十分可能な事件を持続的に担当していくことが可能となると考えます。私は、現在では無理ですが、体力的に可能な時代には、70、80件の事件を担当していたことがありました。
 ところで、事件をいかに手際よく処理でき、安定した生活をおくることが十分可能な事件数を持続的に担当したとしても、それだけで満足することはできません。弁護士は、ただ事務所の社会基盤の範囲内だけで弁護士活動をするだけでは、果たして、弁護士として満足のいく生き方をしたといえるのでしょうか?皆さん!それでは、弁護士として何が第三に大切だと思いますか?私は、それは、事務所の社会基盤を越えて自らの世界観と合致する法律家団体・弁護団に加入し、もしくは弁護団の結成に参加し、その活動に加わり、その活動を通じて、自らの世界観と合致する事件を担当し、その分野の専門知識を集積し、ライフワークとして社会に貢献することだと考えます。
 私は、家族の支援により、鳥取の山の中から上京して大学教育を受けさせてもらい、その上に弁護士という職業に就任させてもらえたのですから、弁護士登録以来、総評弁護団(現在日本労働弁護団)に加入し、その事務局員、常任幹事、労災研究会、季刊誌「季刊労働者の権利」編集長、副会長に長年就任し、労働者の権利擁護の活動に加わってきました。とりわけ、長年にわたる労災研究会の活動を通じて、労災職業病問題をライフワークとする弁護士にならせてもらいました。そして、この活動により、ストレス疾患労災研究会の結成と活動、過労死弁護団の結成と活動を続けさせていただいております。
 この活動により、「労災裁判の展開と法理」(総合労研、1982)、「過労死と労災補償」(旬法社、1990)、「労災補償・賠償の理論と実務」(エイデル研、1992)、「過労死・過労自殺救済の理論と実務」(旬法社、202)等の出版もしていただきました。
 しかし、事件をいかに手際よく処理でき、安定した生活をおくることが可能であり、自らの世界観と合致する法律家団体等に加入して、その活動に加わり、その活動により社会に貢献する活動を真面目にやるとしても、それではストレスを解消することは困難であり、健康を保持して生涯持続的に弁護士を続けることは不可能です。皆さん!それでは、弁護士として何が第四に大切だと思いますか?
 私は、それは、弁護士生活とは無関係な「趣味」を持ち、できれば、その「趣味」を共有できる「心友」を持つことだと考えます。私は、齢40歳までこの大切さを悟り、実践していませんでした。が、その歳に、重病を患いその大切さを悟り、源流の岩魚釣りの「趣味」を実践していた同期の弁護士大森鋼三郎兄のお陰で、私もその「趣味」の世界に開眼し、その後30年余この「趣味」に生かされて弁護士活動をさせてもらっています。大森兄との共著「岩魚庵閑談」(つり人社、2000)、「岩魚釣りの旅礼賛」(近代文芸社)も出版させていただきました。大森兄亡き後のここ数年は一人旅となりましたが。
 以上、思いつくままを記しました。若手の弁護士の皆さん。せっかく苦節して弁護士になったのですから、自分の頭で考えて、実り多い、楽しい弁護士生活をされることを祈念致します。

 
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