自由法曹団 東京支部
 
 
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団支部の活動紹介

若手弁護士へのメッセージ

新紀尾井町法律事務所 田中 英雄


 団から何故、原稿の依頼が来たのか、そのわけが判らなく、しばし、躊躇しました。「団員として、自由と民主主義のために闘ってきた想いを若手の団員に知らせたい」と事務局から伝えられ、一層困ったことになったと思いました。何故なら私には語るほどの戦歴があまりにも乏しいからです。でも、齢73となった今、一言だけでも「思い」を若い人達に伝えられるとすれば、団員として一つの義務を果たしたことになるのかと思うに至りました。
 私が団に入ったのは今から46年前の1967年(昭和42年)でした。司法修習19期生。同期で一緒に団に入ったのは、東京では田中富雄さん(当時、東京合同)、小林幹治さん(域非)、亀井時子さん(五反田)らで、今も現役で頑張っておられます。私は、東京東部法律事務所に入所し、故島田正雄、青柳孝夫、真部勉、秋山昭一の各先輩団員の指導を賜り、地域事務所の活動に参加しました。当時は、60年安保時代の残した数々の事件がまだ争われている時期で、労働争議も多くあった時代でした。私は荒川民商の広田事件(所得税法違反事件)、ペトリカメラ解雇無効裁判、えん罪再審島田事件などに参加したのを覚えています。しかし、私の活動の中心は、地域事務所の役割である地域の人々の権利擁護であり、地味なものでした。その中で、特に私が力点を置いたのが、借地借家人組合運動でした。入団した頃には、東京借地借家人組合(東借連)が設立され、団の大先輩である植木敬夫先生(東京合同)が会長となり、私も後に役員を務めたり、単位組合の組合長も経験することになりました。都内各所での更新料不払宣伝、借地借家問題講座、組合役員向けの研修会などに精力的に参加した想い出があります。昭和40年代は戦前からの老朽見物の建替え問題、地代家賃の増額請求、更新料請求など極めて深刻な住宅問題が噴出し、借地借家組合運動が高揚した時期でした。組合運動の発展につれ、東借連に常任弁護団が出来て、植木先生、私、榎本武光さん(当時、東京東部)、白石光征さん(当時、東京合同)、川名照美さん(故人)、堀敏明さん(当時、東京合同)らが参加しました。弁護団員は更新料不払運動の先頭に立ち、更新料不払の勝訴判決を次々と積ねて行きました。また、全国レベルでは全国借地借家借間人組合連合会(全借連)が中心となり、地代家賃統制令告示改正無効確認の行政訴訟を国を相手に提起して地代家賃統制令撤廃反対の斗いを全国的に展開したことが思い出されます。我国の住宅政策のあり方について社会政策の見地から常に弱者の立場から、住宅問題を生存権の重要な課題として政策提言をして来たのは、弁護士集団としては、団が唯一であったと思っています。それにしても、私達が忘れることが出来ないのは、平成4年の新借地借家法の制定でした。財界が目先した旧借地法、借家法の改悪は借地借家人の権利の後退をもたらし財界による経済市場の「開放」を目ろんだもので、我国の住宅政策を根底から歪めるものでありました。この流れは現在も続いており、「正当事由」制度の廃止に至る危険があります。また近時、借家更新料敷引特約に関する最高裁判決(平23・7・15ほか)が出され、借家更新料請求に少なからざる影響を与えたものと思われます。
 団に入ってあらゆる分野で活動をされている皆さんを見ていると、頼もしく思います。私が46六年間も団員でありながら、見るべき活動もせずに齢を重ねて来たのは、実に恥ずかしい限りです。しかし、今なお、団の旗が高々といつまでも天空をはためくことを願っていられるのは、ありがたいことだと思っているのです。若い皆さんの活躍を心から期待しています。私の事務所にも昨年から団員のヒヨコが頑張っています。長谷川正太郎君(64期)です。余談ですが私の甥です。東借連弁護団に入ってくれたのはうれしい限りでした。

 
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