自由法曹団 東京支部
 
 
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若手弁護士へのメッセージ 「団結の時代」は再び来るか

東京共同法律事務所 宮里 邦雄


 1965年弁護士登録し、黒田法律事務所(現東京法律事務所)に入所した。当時、労働事件を中心に弁護士活動に取り組んでいる弁護士を「労弁」と呼んでいたが、私も「労弁」の先輩達にEしたいと思って、「労弁」を志した。学生時代に60年安保闘争を経験することになるが、いつもデモの先頭にいた労働者集団は、平和、民主主義、人権の担い手として輝いていた。
 1960年代から1970年代、労働運動は昂揚期を迎えていた。中小企業における組合結成と組合つぶしの不当労働行為、激しい労働争議の展開、官公労のストライキとこれに対する弾圧(刑事弾圧と大量処分)等、労働事件といえば、その中心は集団的労働事件であった。まさに、「団結の時代」であった。最初の10年間は、裁判所よりも労働委員会へ出向く方が多かったのではないかと記憶する。さまざまな不当労働行為事件に取り組むなかで、労働者は、何故団結するのか、何故団結してたたかう必要があるのか、一方使用者は何故労働者の団結を嫌悪して団結を弱体化しようと試みるのか、それに抗してたたかうために必要なことは何か、など団結をめぐって労働者や労働組合が遭遇するさまざまな問題を体験することになった。
 今日まで、ともかくも、労働事件の第一線で(と主観的には思っている)、その時々の時代状況を反映するさまざまな労働事件に取り組み続けることができたことは、労働弁護士を志した者としては望外の幸せというべきであろう。
 かつて、「団結の時代」を経験した者として、いまの労働組合や労働運動の状況には歯がゆさを禁じ得ない。労働運動の後退は、日本だけの問題ではないし、産業構造の変化、非正規雇用化など外部的要因によることも少なくないが、団結することの意義や団結する価値が失われたわけではないはずだ。
 憲法28条の団結権保障は、生きているか、と問われれば、まことに心もとない。労働法は、団体交渉権、協約締結権など団結優位原則をとっているはずなのに、労働組合の組織率の後退、労働組合の規制力や影響力の低下、拡がるノンユニオン企業、労働争議の減少や労働組合の活動の停滞など労働者にとって最強のはずの団結権は色あせつつある。もちろん非正規問題に熱心に取り組むユニオン運動など注目すべき動向もある。しかし、総じていえば、労働運動は、長い停滞から脱したとはいえず、目下のところ活性化への確かな展望を見出し得ていない。
 労働組合のセミナーなどで労働法制をテーマとする講演をする機会が多いが、いま私がもっとも気がかりなことは、働く者の権利についての知識や権利意識が非常に弱まっていることだ。
 労働法コンプライアンスに挑戦するかのように違法労働を強いる「ブラック企業」は、このような労働者の無知や法の権利意識につけいったものだ。労働組合は、権利を学ぶ学校であるが、その学校が機能していないことの影響は大きい。
 それでも、「団結の時代」を経験した者は、労働者の権利は、労働者の自立と労働者の連帯によってこそ守られると考え、自立と連帯の団結組織としての労働組合の再生・復権への思い入れは変わらない。
 いま、解雇・雇止め、労働条件の一方的切り下げや差別処遇、過労死・過労自殺、パワハラなど働く者のクライシスコールがたえることなく鳴り響いている。
 安部政権の登場により市場原理・規制緩和論が再び声高に主張され、雇用の流動化を図るためと称して、解雇規制の緩和を求める財界の要望が強まっている。働く者はさらに厳しい状況に追い込まれることが危惧され、働く者の権利を守る弁護士の出番はさらに増えるだろうし、働く者の権利教育において弁護士の果たすべき役割も大きい。若手弁護士の奮闘に期待したい。
 最近かつてかかわった解雇事件の元依頼者の労働者から、定年のごあいさつをいただくことがあり、しばし往時のたたかいを追想し、胸が熱くなることがある。
 昨年11月、10年間努めた日本労働弁護団の会長を退いたが、「団結の時代」が再び来ることを願い、若手弁護士の活動から刺激を受けつつ、「団結なければ権利なし」と語り続けたい。

 
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