自由法曹団 東京支部
 
 
トップページ 支部の活動 イベント 2015年サマーセミナー

団支部の活動紹介

2015年サマーセミナー

自由法曹団東京支部サマーセミナー講演 安倍政権の戦争法案強行と運動の到達点・課題
一ツ橋大学名誉教授 渡辺 治


はじめに

緊迫する国会情勢、衆院強行採決、参院での闘いへ
 戦後70年、戦後最大の岐路に立つ日本〜安倍内閣の戦争法案〜

1 安倍内閣とは何か?なぜ戦争法案に執念を燃やすのか?

(1) 安倍内閣はたんなるタカ派の「お友達」内閣ではない
安倍内閣、2つの顔:
  1. アメリカ・財界待望の顔。冷戦の終了後、支配階級が求めてきた軍事大国化、新自由主義を推し進める顔。
  2. アメリカ財界が嫌がることをする顔。歴史修正主義への固執

 後者の顔が注目されて目立っているが、問題なのは、「なぜ安倍政権が復活したのか」ということが重要。支配階級が安倍でないとこのような状況を突破できないと判断したということが重要。
 なぜ2つの顔か?――大国化をめざす内閣
 安倍内閣は戦後日本で初めて、現実的にアジアの中で中国に対抗できるよう、日本を軍事大国にしようという本格的内閣。大国化のためには、集団的自衛権、戦争法案、新自由主義改革のみならず、国民意識の改変も不可欠、そのためには、歴史の見直し、教育も不可欠
 戦争法案だけをやっているのではないということも重要。大企業の競争力強化のための新自由主義改革 ―労働者派遣法改悪、TPP、原発再稼働なども同時に強行する内閣という特徴もある。
 運動を広げるためには、様々な運動を結びつけていくことも重要。戦争法案反対とTPP、労働法改悪反対など・・・・。
 安倍のめざす大国は復古的な戦前型の古典的帝国主義大国ではない。アメリカを盟主とするグローバル企業本位の世界の中での大国、対米従属下での大国。

(2) 安倍内閣の構造と矛盾
 安倍内閣を支える2つの勢力・・・
 外務・防衛官僚、経産官僚とタカ派が相互に対立しあいながら、日本をアメリカに追随するグローバル企業の進出がやりやすくなる大国化、軍事国化、新自由主義化を目指す。
 安保・防衛政策の主流は、外務・防衛官僚で、安保外交政策にはタカ派は関与できない。日米同盟の強化を図っている。
 新自由主義改革では、財務官僚より、経産官僚が原発再稼働を含めて中心となって新自由主義改革を進めるという点に非常に特徴がある。
 外務・防衛官僚と経産官僚が主流であるが、大国を支持する国民意識の形成、改造を考えると、タカ派グループも無視することができない。
 アメリカ追随のグローバル競争大国路線vs復古的国民統合という矛盾する部分もあるが、この二つの勢力のバランスの上に立っているのが、安倍政権。
(3) アメリカ、財界の切り札としての安倍内閣
 アメリカも財界も、歴史修正主義に固執する安倍に、自由な市場秩序の攪乱者ではないか、という不安を抱いていたが、いまや全面支援をしている。
 安倍のような野蛮な情熱なければ、支配階級の懸案を押し通すことできないから。
 反対運動が盛り上がっても、支持率低下にもめげずに課題を遂行していくことができるのは安倍政権のみ。
 戦争法案の要は集団的自衛権の観があるがやや不十分。戦争法案の本質は、アメリカの遂行する戦争、介入のすべてに、場合によっては武力行使も含めて全面加担する体制をつくる法案。ひとつめの柱は、「後方支援」という名目であれば、アメリカの戦争に全面加担。2つ目の柱は、特定の場合「存立危機事態」という口実つけば、武力行使、人も殺す集団的自衛権である、と捉える必要がある。
 それが、アメリカ・財界の全面バックアップの理由。安倍訪米と上下両院合同会議での演説に見るアメリカの安倍首相に対する歓待。
(4) 安倍内閣の「大国」政治の3つの柱
  1. 戦争する国づくりと改憲 ―中心は戦争法案
    自衛隊の海外派兵は冷戦終焉以来、アメリカ、財界が求めて実現できなかった宿願
    新ガイドラインと戦争法案(資料1)
  2. 構造改革 ―国民皆保険体制解体、労働者派遣法改悪、原発再稼働、TPP
    新自由主義改革の第2段階
  3. 国民意識の改変 ―歴史の修正・改竄、戦後70年談話、教科書統制

2 戦争法案反対運動の展開と安倍内閣の誤算 〜反対運動4つの時期区分〜

 安倍首相の誤算は、反対運動の予想を超える盛り上がり。

(1) 第1期 ―5月15日 ―6月4日 運動の担い手の登場期
※6月4日は3名の憲法学者が違憲発言をした日  5月12日 総がかり行動 許すな戦争法案集会 総がかり実行委員会が戦争法制に絞った集会を実施(2800名)
 5月21日 総がかり行動国会前行動スタート(1000名弱)
 6月5日 SEALDs定例行動開始 1000名弱で始まった
 →総がかりとSEALDsという2つの主体の誕生。
(2) 第2期-6月4日 ―7月16日 反対運動の急速な広がり、運動拡大期
 6月4日の憲法審査会での参考人3人の違憲発言を契機に反対運動が急速な拡大。
 自民党、マスコミはオウンゴールといったが、オウンゴールは運動が生んだもの。この発言はマスコミに自信を与えた。マスコミが運動や集会を報道しはじめた。
 オウンゴールは風のないところにはない。運動があの3名の憲法学者の違憲発言を生んだ。
 6月14日、25000,6月24日3万人 運動が広がり始めた。
 第1期の約10倍  安倍内閣、2つの誤算
  1. この運動で安倍内閣は95日の会期延長を余儀なくされた
    60日ルールを考えると、9月末までの会期延長を余儀なくされた(決定的な誤算)。
    →安倍首相は、川内原発再稼働の前、また、翁長知事が辺野古の埋め立て許可を取り消す前、70年談話の前に国会を閉めたかった。
  2. 強行採決に追い込まれたこと。
     これにより安倍内閣の支持率は激減し安倍は追い詰められた
(3) 第3期 ―7月16日 ―7月27日 反対運動第1の高揚期
 集会参加者の拡大
 安倍内閣の支持率低下と逆転
 支配階級内部の動揺と混乱 ― ―焦りからの自民党、補佐官等の暴言が立て続けになされた。公明党の基盤の創価学会に反乱が起こる。
(4) 第4期 ―8月1日〜  政権側の対策と運動側の新たな昂揚への準備
安倍内閣の危機回避策を行い始める。
  • 辺野古埋め立て工事1ヶ月中断、これで安倍内閣は、翁長知事がやろうとした、8月の辺野古埋め立て許可取り消しを防いだ
     しかし、矛盾は拡大。沖縄にとってはとても大きな成果。これで安倍政権は9月11日に辺野古埋め立てを再開できるのかという問題をはらむ。9月11日までには戦争法制を通し、辺野古埋め立ての再開をするというもくろみだが、ダメな場合、さらに傷口拡大。
  • 70年談話→公式の村山談話の否定はできなかった。村山談話を上書きして取り消すため、侵略植民地支配の問題、慰安婦問題を書かない、お詫びも書かないという強い考えが安倍首相にはあった。これができれば、今後の教科書統制でさらに大きな武器。
     しかし、これ以上の支持率低下を防ぐためまたアメリカの支持を確保するため、これを取りやめざるをえなかった。

 運動側の新たな昂揚への準備

  • 8月11日に小池晃議員による統合幕僚監部資料暴露。→19日以降の特別委員会から「第5期」を開始することができるかがこれからの勝負。
  • 8・30大行動の提起

3 戦争法案反対運動の昂揚の原動力 〜2つの共同と新たな力

(1) 2つの共同
(a)運動団体間の共同を追及し実現したこと ―90年代以降初めて

 ・ある課題を目的として、持続的な共同ができていることが大きい。大げさにいえば安保共闘(安保条約改定阻止国民会議)以来55年ぶり。少なくとも冷戦終結以来初めての共同ができた。

 ・統一戦線、共闘運動の歴史と現状

  1. 60年代の統一戦線 ―安保共闘(社会党、共産党、総評)。
     60年安保闘争の2つの原動力@革新の共闘、A平和と民主主義の力の合流。「安保共闘の再開」と共産党はずっと言ってきたが、60年代には持続的な共闘ができなかった。ベトナム戦争をきっかけに1日共闘はできたが・・・。
  2. しかし、全国レベルでなければ、統一戦線の重要な前進
    67年東京都知事選の共闘。社会党系、共産党系の団体が同じ数だけ入って、対等平等、政策協定も結び美濃部都政を作っていった。
  3. しかし、80年社公合意と統一戦線の「終焉」。
  4. 90年代以降の共闘の試みと困難 ―5・3実行委員会、九条の会、都知事選型
     都知事選レベルで、共産党系、社民党系、生活ネット系での共同はあった。
     →国政レベルでの持続的な共同はできなかった。しかし、今回、これができるようになった。
     →しかし、今回、かつてない共同 ―3実行委員会方式が実現した。
     →民主党、共産党、社民党が一堂に会し、連携するというかつてない事態
      ―5月3日、総がかり行動のすべての行動 ―この力で議会内での共同、議会での追及を励ました。
     小田川氏(全労連)、福山氏(平和フォーラム)、高田氏(市民連絡会)の3名が記者会見で並ぶというかつてない状況。
     「戦争させない・九条壊すな!総がかり行動実行委員会」型の共同(資料2):「この共同行動は、これまで私達の運動がなかなか超えられなかった相違点を乗り越え、戦争する国づくりをくいとめ憲法理念を実現するために大同団結するもので、画期的な試みです。」)

・共同実現の理由

  1. 労働者状態の悪化、地域の衰退・矛盾の激化
  2. 反貧困の運動、3.11以降の反原発運動以来の共同の積み重ね
     2008年12月、連合系の組合と全労連系組合の、派遣法抜本改正めぐる集会、年越し派遣村の経験。
     3.11以降の原発の取り組み。ここでつながった人たちが今回も動き、共同を生み出している。

・共同の3つの効果

  1. 議会内で、民主党、共産党、社民党が連携を行ったことも大変画期的な出来事。国会議員団での意見交換・連携。
  2. 各分野での共同を生み出したことも重要。法律家6団体共同、学者、学生の共同など。
  3. 共闘の文化

(b)政治的立場、政策、思想の違い乗りこえる平和と民主の共同

  • 平和という点での共同 ―戦争法案反対の一点で、安保・自衛隊に賛成の人も反対の人も共同を。安保と自衛隊が違憲だと主張していた人たち。安保と自衛隊は合憲としつつ、集団的自衛権の行使容認は違憲だという立場の人たちが共同した。
  • 平和と民主主義の共同 ―平和への声と民主主義、立憲主義の破壊反対の声が合流した
    →6月4日の保守的憲法学者の違憲発言、広範な弁護士会、学者の立ち上がり。
     こうした立ち上がりは、立憲主義蹂躙への強い危機感が生みだした側面が強い。
(2) 新たな運動、新たな力

(a)大都市だけでなく、地域の立ち上がり
 新自由主義による地方の解体という客観的要因に加え、九条の会の地域での頑張りが大きな要因となっている。
 (資料3):9条の会の訴えと提起 ― ―地域と共同をメインに行動提起をしている。
 地方議会へ意見書を挙げる。地方議員はもちろん国会議員への要請を徹底する。
 この闘いが、今国会中の地方議会決議7月17日現在356件、賛成1割に満たず、を実現。
 その結果、地方議会でのかつて無い意見書、
cf.毎日新聞、2013.3以降 405議会意見書、反対、慎重393議会、賛成・不明12。
 「8月30日10万人行動、全国100万人行動」は、地域の共闘がないとできない。

(b)保守的な人々の立ち上がり(良心的保守との共同が大きな特徴)
 自民党のOB(山崎拓氏、古賀氏など)の発言。地域の保守層の安倍離れが起こっている。
 保守の取り組みの中で、広島県の県議の呼びかけで庄原市20名の市議で安保法制反対の団体を作った、という動きまで出ている。
cf.毎日新聞アンケート調査では、309議会から回答があり、反対169、慎重136、賛成4、そのうち114議会で与党議員が(戦争法制に反対する決議に)賛成に回っているとのことであった。反対169議会のうち39議会で与党議員賛成。創価学会の反乱。

(c)学生 ―SEALDsという組織の立ち上がり
 6月5日から定例行動開始。大きく拡大して、学者の会と共同をして8月26日に集会予定。全国100大学で動きがある。地域のSEALDsもできてきている。

(d)女性の立ち上がり
 6.20 国会ヒューマンチェーン 女の平和 15000人
 子どもに平和を IN渋谷 →新しい共同行動を生んだ。
 世論調査に反映、7月19日付け毎日新聞
 :戦争法案:賛成27%(男性39%、女性19%)
 安倍支持:35%(男性40%、女性30%)

(e)弁護士会、日弁連、学者らのかつてない広範な立ち上がり

4 安倍内閣の危機と戦争法案廃案へ向けての課題

(1) 安倍内閣の4つの爆弾と矛盾(国会延長の中で生じたこと)

(a)安倍内閣の支持率急落と政府・与党内の矛盾
 磯崎暴言、自民党若手議員 ―56.25自民勉強会、SEALDs利己的発言

(b)4つの爆弾の新局面

  1. 戦争法案
    統合幕僚監部資料の爆弾;  @文民統制の崩壊。
     A戦争法案の本質は新ガイドラインと戦争法案の連関ということが、この資料に明確に書かれている。
     cf.共産党、志位委員長が、5月27日の質問を、集団的自衛権からでなく、アメリカの戦争への「後方支援」名目の全面加担から質問に入ったのは正しい。
     ・沖縄米軍事故で新たな段階へ ――8月12日の沖縄米軍ヘリ墜落事故も戦争法案の日米共同作戦の先取り
  2. 川内原発再稼働
     読売新聞は世論調査をしているが、反対が強い。衆参、特に衆議院の予算委員会の中で論議してほしい。
  3. 辺野古新基地
     政府、埋め立て工事1ヶ月停止、9月11日から再開予定。
     しかし、9月11日まで運動続いたら、大きな爆弾となる。
     8月12日に米軍のヘリ事故を取り上げるべき、これは戦争法制のさきがけ。辺野古と戦争法制を結びつけるべき。
  4. 70年談話
     安倍首相は、おわびなどを入れたくなかった。また村山談話を覆したかった。
     しかし、侵略、植民地支配、お詫びをちりばめた。村山談話などの継承「揺るぎない」。
     ここでも譲歩 ―保守内から不満と、また暴言。
(2) 戦争法案を廃案に追い込むための運動の4つの課題(資料3)

(a)戦争法案を廃案に追い込むには安倍内閣の退陣しかない
 決め手は、このままでは自民党政権自体が危機というところまで追い込む。
 容易ならぬことだが不可能ではない ―4つの課題

(b)国会内外の行動をもう一回り広く大きくするために、地域、職場、学園に
 ・全国100大学で行動が起きている。国家機密法反対(中曽根内閣)の時以来の運動。
 ・学習と宣伝を改めてもっと広範な人に呼びかけないとダメ
  戦争法案 漠然と不安、しかしどんな危険かは分かっていない
 ・議員オルグ ―参議院議員、地元選出全議員にもう一度働きかけやろう。秘書に丁寧に話していくことは必要。
 ・マスコミに働きかけよう、集会には必ず声をかけよう
 ・総がかり行動実行委員会の行動には大勢で ―8.30集会が焦点。これを徹底する。

(c)地域を根城にして、もっと幅広い、良心的保守を巻き込んだ共同を
1)革新の共同を地域で
  総がかり行動は中央のみ、地域で多様な形で共同を
  ex.山形県 民主党、社民党、共産党、山形県弁護士会
   ―2006年以来の9年ぶりの共同、1000人 33団体の実行委員会
2)戦争法案が地域に影響を及ぼす点を保守勢力とともに地域で共同を
  戦争法案は地域を戦争に巻き込む視点を明確に
  地元選出国会議員への働きかけ、地方自治体、議会へ取り組みをさらに強める
  市町村議会での請願、決議、地方議員オルグ、自治体首長への働きかけ
3)地域の怒りを総結集
  原発再稼働、TPPに反対する声も

(d)参院での審議と固有の課題
1)3つの爆弾をどう結びつけるか
  70年談話、辺野古新基地問題、原発再稼働は、衆院でも。
  安倍内閣の大国化のための不可分の課題としてどれだけ追及できるか。
2)参院特別委員会での闘いの方針
 ●統合幕僚会議資料による参院での新局面
   ―国会無視、文民統制の崩壊
   ―新ガイドと戦争補婦案、本命に迫れる
 ●合同チームなどを検討、法案の危険性を暴露、政府答弁での縛り
3)対案、修正案提示の動きとどう戦うか
 民主党内細野、長島、馬淵らの動き ―民主党執行部との連携と運動の共同

(d)辺野古新基地建設と戦争法案を一体的に闘う
 この2つを一緒に進める。辺野古の発言を必ず入れるとか。
 辺野古新基地建設阻止と戦争法案反対の運動、どれだけ合流できるかが鍵
 本土の運動では、辺野古も普天間も、本土の基地もなくそう(基地をなくす!というところでやらないと本土では闘えない。安保の問題を入れないとならない。)
 翁長知事は、辺野古の問題をつぶせば、普天間の問題も解決するというが、ここのつながりをどうするか。ここは、戦争法制反対の動きを本土で作る必要がある。


むすびに代えて 〜今こそ正念場

 局面は変わった ―戦争法案は潰す、安倍内閣を潰す、困難だが不可能ではない
 ★「戦争法案阻止の闘いはオールオアナッシングの闘いではない」ということを強調したい。
 目標は安倍政権を倒して、戦争法制をつぶす。
 しかし、そこまで行かずとも、戦争法案の闘いが盛り上がれば、安倍内閣の命と引換に戦争法制を通すということもありうる。そこまでもっていければ、戦争法制は非常に使いにくいものにできる。存立危機事態は既に使いにくいことになっている。それだけでなく、安倍を倒せば、辺野古は潰れる。明文改憲もつぶせる。
 私達がどこまで安倍首相を追い詰めて、安倍首相を岐路に立たせられるかということが重要。1日でも早く安倍をつぶせば、それだけ、戦争法案、辺野古、明文改憲を阻む可能性強まる。
 安倍内閣のトータルな野望に連動
 自由法曹団弁護士の役割→戦後日本の民主主義運動の特徴は弁護士の運動が、民衆運動の中でも大きな意味を持ってきたこと。
 九条の会に多くの弁護士が入っている。地域での戦争法案の学習会などでは主力


参考文献

 渡辺治、岡田知弘、後藤道夫、二宮厚美『大国への執念 ―安倍内閣と日本の危機』大月書店


【質疑応答】

Q須藤団員:安倍首相のような野蛮な人間でないと戦争法制を通すということをやりきれないだろうという点について詳しくお話いただきたい。
A:1 安倍首相は、日本を戦前の日本に匹敵する、アジアで中国に対抗する大国になろうという野望を持っている。だから、アメリカに言われなくても、自衛隊の海外出動態勢づくりに積極的。これは小泉首相がアメリカのご機嫌取りに自衛隊のイラク派兵やった以上に強い。
 2 しかも安倍は「大国」という野望を持つため、戦争する国づくりだけでなく、新自由主義改革も教育統制も総合的に推進している。これも支配階級にとって好都合。
 3 その結果、安倍政権下で、支配階級の総力を結集する体制がつくられている。財界とか日本の支配階級、外務省のサポート、経産省が全面サポート。
 4 さらに安倍首相は、「大国」のために全面的な対米依存を徹底している。完璧な対米追随が安倍首相の考え。安倍首相は、岸信介の回顧録を読み直すということをしている。そこでアメリカへの追随を再確認したのだろう。安倍首相が70年談話で意を用いたのは、アメリカが何をいうかということ。
 アメリカの意に反するタカ派、衛藤晟一や萩生田光一が、70年談話の作成からはずされていることは安倍がだれに気を使っているかを象徴している。以前、靖国参拝前にアメリカへ安倍首相が送り込んだ衛藤晟一たちが、靖国神社へいくことについて「アメリカのOKとった」と言っていた。安倍首相はそれに乗っかったが、間違いであった。タカ派の地位が下がったのは、これがきっかけ。
 最終的判断を決するのは、「アメリカがどう考えているか」ということ。安倍首相はたんなる復古的タカ派ではない。岸信介は、やることを決めたら大胆にやる、ということだったが、安倍首相はアメリカのために、戦争法制をやりきるためならタカ派を切る。
 もっとも、櫻井よしこ氏ら、切り捨てられたタカ派の人々の暴言は今後出てくるだろう。
 村山談話の中にあった、近隣諸国とアジアとの関係が重要。近隣諸国に迷惑をかけた、ということが出てくるが、今回の談話には、近隣諸国という言葉がない。こういうところにも安倍の、アメリカのみを見据えた態度が現れている。

Q萩尾団員:幕僚監部の資料のポイントをまとめてほしい。
A:まず文書の構成に着目してほしい。その構成は3部構成。ガイドラインの解説があったうえで、戦争法案の解説があり、スケジュールの内容などがある。問題は、最初がガイドラインの解説があった上で、その実行という視点で戦争法制の全体を解説しているということが重要である。
 そして、第2部の戦争法案の検討では、法案を3つに分け、@新ガイドラインを現行法制で実現する部分はどこか、A戦争法制を実現しないと実現できない新ガイドラインの部分はどこか、B新ガイドラインとは関係のない戦争法制で実現することはどこか、という3つに切り分けている。そしてB新ガイドラインと関係のない戦争法制で実現するところは説明する必要はない、として説明省略している。つまり戦争法案は、ひとえにアメリカの戦争=ガイドラインの実行のためと言うことが手にとるように分かる。
 第1部、新ガイドラインの説明時間10分3秒。第2部 戦争法案の説明時間10分(しかも新ガイドラインの解説がここにも盛り込まれている)。

Q萩尾団員:大学改革についてお話いただきたい。
A:大学改革は安倍政権が再起動し、新段階に突入させた新自由主義改革の焦点。なぜ焦点化というと、グローバル企業の競争力に欠かせない先端的化学技術を徹底して大学で作らせる。グローバル企業で使える技術を効率的に作らせる。またグローバル企業に役立つ人材を効率的につくるからだ。今浮上している人文社会学系の学部の廃止の動きはその象徴。
 安倍政権は「教育再生実行本部」を作り、大学改革を進めている。最大の梃子は運営費交付金を大学の先端技術科目とグローバルエリートを作るための実行度に応じて重点的に割り当てていくという点。
 大学の経常的運営に不可欠の、大学が生きるか死ぬかの交付金に差をつけることは、これまでやってこなかったこと。文科省でさえも大学が壊れると傾斜配分はやってこなかったが。ここをひっくりかえした。安倍内閣で創設され、竹中とか経団連会長が参加している産業競争力会議がリーダーシップを握ってやった。理工系にはお金を付ける。人文社会部系は切り捨てられる。
 今までも社会主義圏の研究、歴史研究、哲学などはどんどん削られてきた。これがもっとドラスティックにやられる。
 しかし、これに対する反対の運動は、まだ弱い。ここで文科省にたてついたらさらに減らされるということがあるからだ。
 戦争法案は個々の大学の行く末とは関わらないので、立ち上がれたということが重要。人文科学系の運動が泣かず飛ばずだったのが、息を吹き返した。戦争法案反対ということであれば、学長は出てこれる。戦争法案での大学人の立ち上がりを契機に、大学改革についても、全大学的に意見を出していくことが必要だ。

Q池末団員:国会の質問で存立危機事態についてはかなり詰まっているという話しがあったが、どれくらい詰まっているのか、後方支援の方はどこが詰まっていないのかをお聞きしたい。
A:1 存立危機事態で大きいのは、憲法学者らが限定的集団的自衛権は違憲だといってしまったという点。与党は集団的自衛権の限定的容認論で手を打って、内閣法制局を垂らし込んだ。もと内閣法制局長官らも、この点では意見が分かれた。
 限定容認論をどうやって判断するかということが問題だったが、3人の憲法学者は、限定容認論も違憲だといった。内閣法制局としては、参考人が限定容認論について、まさか全員違憲論をいうとは思っていなかったと思われる。
 違憲訴訟が起こったときに、最高裁は少なくとも、相当苦慮するだろう。
 もう一つ、戦争法案で違憲性が高いのが、「非戦闘地域」「後方地域」という概念をなくして、武力行使との一体化論を事実上取っ払ったことだ。
 もともと、政府、内閣法制局は自衛隊の活動をできるだけ広く認めるために、集団的自衛権という概念を国際法の概念と異なって、極めて狭く限定した。他国への攻撃に対し「武力行使」をした場合に限るという極めて狭い意味に限定した。そして、他国の戦争に武力行使で加担することだけは認めないという線を引いてきた。
 これまでの内閣法制局の考えは、海外の戦争に武力行使で参加するというのは防ごう、弾薬の提供や発進中の艦船への給油をしない、というものであり、ここに内閣法制局に「良心」もあった。その線引きが武力行使との一体化論であった。
 これを取っ払って、アメリカの戦争により積極的に加担するというのが今回の戦争法制。

Q島田団員:8月23日日曜日に連合が国会前で1万人集会を開く。「みんなで安倍政権に怒ろうという」集会をひらく。山口二郎、小林節教授がくるということをお聞きした。昨夜の総がかりの行動提起には24日、26日、30日の行動提起はあったが、23日の連合の1万人集会の呼びかけがなかった。もっと、発展させるのはどうしたらいいかという視点から、連合との関係がどうなっているか。連合発足してから政治課題を前面に掲げた集会を開くのは初とのことだが・・・。内情をご存知であれば、教えてほしい。
A:1 総がかりの方では、独自行動は大いにやってください、ということ。各団体の独自行動を大いにやりながら、共同行動を推し進めるというのが方針。連合だけでなく、総がかりに参加の諸団体の独自行動も同じ。
 2 平和フォーラムが総がかりに入ることによって、事実上、連合と手をつないだことが重要。安保法制について、連合も声明を出している。23日の連合の集会も、総がかりによる統一行動のたまものとみることができる。
 ここまで連合がきたということは重要。

Q東京憲法会議の齋藤さん:創価学会の最近の行動、創価学会移動部の動きはどうか。
A:池田氏が元気ならこんなことはなかったはず。一糸乱れず戦争法案賛成になった可能性あり。創価学会内部では色々な意見があって、集団的自衛権限定行使論の時点から相当公明党への不満はあったはず。公明党にとっては、まずい。鉄の規律が破られると危機感を持っている。
 今回の動きを見ると、かなり公明党にとっては重大な事態であり、これまであり得ない事態。公明党議員の中にも動揺が走っている。議員への相当厳しい規制が働いている。
 しかし地方議員まではその規制が行き切れていないので地方議会や地方の創価学会の止むにやまれぬ行動が起こっている。

Q長澤団員:民主党の辺野古問題について、運動論的なアプローチの仕方を教えてほしい。
A:翁長知事が言っていて、沖縄全体が頑張っているオール沖縄という線で(今までのことを問うたら民主党はどうしようもないが)、民主党をもう一回変えるチャンスがある。チャンスは9月11日。再度、協議が破綻して、辺野古の新基地建設工事が始まったら、民主党は行動をともにするか、これまでのように沈黙するのかが問われる。一緒に行動させることができれば大きい。

Q石島団員:最近の世論調査の傾向が気になっている。不支持が過半数を超えるなどの動きがあったが、お盆休みから減少にブレーキがかかっている。ANNで少し支持が増えるなどもしている。反対の声を広げる運動をしている実感と合わないところもあるが、どうなのか。
A:確かに、世論調査の結果、70年談話を受けて少しだけ上がった。ただ、注目すべきは読売の世論調査は戦争法制と原発についての反対の%が減っていないこと。支持率は少し上がったが、戦争法制、原発についての反対が変わらない。
 責めどころはやはり戦争法案。
 少なくとも、統幕の資料により、安倍首相が狙っていた8月末の強行採決は無理になった。

Q野澤団員:立憲主義派と平和派が手を組んでいる。安倍政権を倒したり、相当ダメージを負わせられれば、明文改憲をさせないだろうとのことだったが、立憲主義派は、明文改憲から正々堂々と変えましょうということを安倍政権がやり始めたら、それには賛同するかもしれない。そうなると、今できている共同が壊れるのではないか。
A:1 ですから私たちは、安保条約や自衛隊に賛成をする人でも、アメリカとともに海外で戦争をすることには反対という1点で闘いましょうといっている。
 立憲主義の中には、改正によって変えてはならないものには「平和主義」が入っている。憲法9条を守りましょうという点での共同を言っている。
 2 もと内閣法制局長官の阪田氏がいっていたのは、「やるのなら正々堂々と憲法変えましょう」、ということ。小林節氏や柳沢氏もそういっていた。
 しかし、運動をやる中で、立憲主義派の人たちの意見が少しずつ変わり、平和主義と立憲主義とが合流し始めていることが注目される。戦争法制反対の声の中で立憲主義派が「平和」を守る、憲法9条を守るという方へ変わっている。交流をしていく中でここを変えきれるかということが重要。
 3 戦争法案がどういう意味で問題なのかというところを言えるのは私達。安保条約が諸悪の根源であり、その延長上に戦争法案もある、沖縄基地問題をほんとうに解決するには、安保条約に手をつけなければダメだという点を言うのは私たちの役割だ。

Q坂本団員:中国の脅威とか、日本の平和を守るために集団的自衛権は必要では、という考えもある。その中で、憲法9条が重要であり、日本が平和な国であるためにも、憲法9条を守るべきというところに説得力を持たせるには。
A:中国の脅威に対する対案を打ち出していくことが重要。
 中国の軍事主義への対抗は、アメリカに追随した戦争法案ではなく、東北アジア平和保障構想、9条原則の貫徹のイニシアティブを日本がとること。日本の前提として、侵略戦争の歴史の謝罪、改めての賠償と安保条約の廃棄、米軍基地撤去。
 戦争法制をなくすことがアジアに送る日本の最良の70年談話だと思う。

 我々がやることは肉体派な運動だけではなく、頭を使った運動にしないといけない。

 
自由法曹団東京支部 〒112-0014 東京都文京区関口一丁目8-6 メゾン文京関口U202号 TEL:03-5227-8255 FAX:03-5227-8257