自由法曹団 東京支部
 
 
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団支部の活動紹介

教科書採択問題事務所学習交流集会

報告要旨

1)吉田典裕(日本出版労働組合連合会副中央執行委員長)
 とりくみはまだ進んでいないので、現時点でつかんでいる中学校の社会科検定に関する最新情報を提供したい。
 検定内容の報道解禁は4月6日の午後5時で、例年に比べると1週間程度遅い。とはいっても、文科省は今年初め頃には報道解禁は「4月中旬以降」といっていたので、早めたとはいえる。遅くなった理由は、自由社と学び舎の申請本が不合格になり、再申請したため。学び舎は中学校の先生たちが立ち上げ、新規に検定申請したもの。
 2014年度に検定申請があったのは表のとおり。

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地理 東書 教出 帝国 日文        
歴史 東書 教出 清水 帝国 日文 自由社 育鵬社 学び舎
公民 東書 教出 清水 帝国 日文 育鵬社    
地図 東書 帝国            

 地図(これも検定対象の教科書)では、帝国書院が採択シェア90%を占める。かつては地理・歴史・公民を同一出版社の教科書で揃えるケースが多かったので、3つ全部を発行するのが普通だったが、いまでは必ずしもそうではなくなっている。これは教科書価格があまりに安く、コストに見合う採算点の部数が大きくなっているためだ。法定見本本約16,000冊の発行は教科書発行者の負担で、採択が困難だと判断した採択地区には見本本を送らないこともある。したがって採択の対象にすらならず、さらに採択を減らすという悪循環に陥る恐れもある。これは日本の教科書制度の大きな欠陥だ。
 実は自由社も見本本の財政保証を文科省に求めている。皮肉なことにこの点だけは出版労連と要求が一致する。かつて扶桑社が初めて教科書発行に参入したとき、地理と公民は出すつもりがなかった。公民は採択を有利にしようと「後付け」で発行した。しかし結果的に歴史と公民がセットになってひどい内容を掲載するという事態になっている。
 今回、自由社は公民については検定申請をせず、現行版について資料更新など訂正申請を行って継続発行することにした。検定基準が変わったのに、そんなことが許されるのか疑問だ。実はある新聞記者も同様の疑問をもち、文科省に聞いたところ「新たな検定基準に該当する箇所がないので、継続発行はまったく問題ない」と回答したという。しかし「新たな検定基準に該当する箇所がない」かどうかは、検定を行わなければ証明できないはずだ。検定そのものには反対だが、これは制度を公正に運用していないということなのではないか。仮に他社が同じことをやったら認めたのか疑問だ。
 育鵬社は、小規模の改訂。したがって戦争賛美と憲法改悪推進という性格は不変だ。記述が「相互に矛盾している」「表記が不統一」などというものあって、教科書という以前に出版物としてのレベルが低い。「政府の統一的見解を掲載する」という新しい検定基準に引っかかるのが、「東京裁判」に関する記述だった。東京裁判を受け入れたというのが日本政府の「統一的見解」なので、そのことに触れろということになる。これだけではないが、検定によって極端な記述が是正されて良くなったという皮肉な結果になるだろう。自由社の教科書も同様だろう。
 江東区千石の教科書研究センターで検定資料が公開される。対象は申請本(いわゆる白表紙本)、見本本(採択に付される版)、教科用図書検定調査審議会の議事録などだ。センターでの検定公開が始まったのが2003年で、公開期間は4月24日から7月31日までで土日・祝日を除いて67日だった。その後、日数は漸減の傾向にあったが、2011年には激減し、5月23日から6月30日までの28日、2003年比で42%になった。この年は中学校教科書採択年だったから、育鵬社、自由社教科書への批判が広まらないように慮ったのではないかと疑わざるをえない。昨年は6月3日から同26日までのわずか17日、2003年の25%にまで減らされている。
 公開開始の日が遅れている理由について、文科省は見本本が入手できないことを挙げているが、真っ赤なウソだ。見本本は4月には出来ている。明らかに意図的だ。文科省は、運動で矯正しないとこういうことを平気でやる。今年は、もっと公開開始日を早め、日数も確保するよう要求する必要がある。
 しかし一方で、中学校の採択の年だけ会場が混むという実態もある。小学校、高校の年は会場にほとんど人がいないこともある。毎年行って見てくるべきだ。
 根本的な問題として、日本の教科書制度そのものを問い直す必要があるだろう。日本の教科書検定では、直接検定を担当するのは教科書調査官で、調査官の報告に基づいて教科用図書検定審議会で審査され、検定意見が確定する。しかし調査官の報告がほとんど踏襲されるのが実情だ。文科省の職員である調査官の主観による検定というべきだ。世界の教科書制度をみると、検定そのものは日本以外にもある。しかし、教育担当省の職員=政府側という身分で検定が行われているのは、管見のかぎり日本だけだ。他国では、ともかくも政府から独立した立場で検定が行われている。
 広域(共同)採択制度も、日本以外にはマレーシアにしかない。どこの国も教科書を採択するのは学校単位が常識だ。マレーシアが広域採択制度を導入したのは1986年で、2つないし3つの郡(district)で同一教科書を採択する。日本の制度に習って導入した可能性もある。
 検定・採択とも日本の教科書制度は世界に類例がない特殊なものだ。この制度そのものを問い直す必要がある。

出版労連の取り組み
 教科書闘争は、出版労連の前身である出版労協が結成される1958年よりも前から、すでに教科書出版社の労働組合が相互に連絡を取り合って実質的に行われていた。家永訴訟よりも前から行っていたことになる。「教科書に真実と自由を」という家永訴訟のスローガンがいまも輝きを放っている。これがよいことなのかどうか。政府にとって学校教育法で使用義務を課した検定教科書は、国家の意思を国民に植えつける大きな武器なので、手放したくない。それゆえ大変なたたかいにもかかわらず、家永訴訟のスローガンが生きている。
 いま春闘が行われているが、教科書出版社の労働組合でつくる教科書労働組合共闘会議(教科書共闘)は、通常の経済・制度改善要求(統一要求として、交渉も傘下の労働組合と対応する経営が一堂に会して「統一交渉」として行っている)のほかに「教科書統一要求」を提出する。これは教科書制度などについて経営の考え方を質すとりくみで、回答はこれから受け取る(対角線交渉で)。同一趣旨の要求を教科書協会にも提出している。教科書共闘加盟以外の教科書出版社の労組も共通の要求を経営と協会に出している。

 昨年度、教科書闘争本部をつくった。アドホックな組織という位置づけで1年のみという予定だったが、情勢との関係で今年度も継続している。当初懸念した「教科書法案」は具体的な動きがないが、たたかいの構えを解除するわけにはいかない。具体的な活動としては、実教出版日本史教科書の採択妨害に反対して、昨年5月23日に実行委員会方式で集会を開き、400名近くが集まった。今年3月20日には、道徳の教科化反対と教科書価格の適正化を求めて国会議員要請を行った。自民党の自称極右の秘書が「俺は道徳の教科化には反対。押しつけるものではない」と言っていた。自民党も決して一枚岩ではないのだろう。道徳の教科化は決定したが、これで終わりということではない。継続して反対していく。
 これから情報収集や組織内の学習会も行っていく。組織外の団体や個人との共闘関係の構築が闘争本部の課題。
 今年の中学校教科書採択に向けては、全国のすべての市町村教育委員会に歴史の事実を歪めたり憲法改正を呼びかけたりするような教科書を採択すべきではない、現場の意向を尊重して採択を行えという趣旨の陳情を出す。これは採択のたびに行っている。「平成の大合併」で自治体の数が減って、本数は1,700強になっている。昨年の12月に日弁連が出した意見書も活用したい。

(4)質疑応答
 長尾:見本本はもうできていて、もらえるのか?
 吉田:いまは見本本の管理が厳しいので、採択時期には難しいだろう。法定展示が6月19日から14日間あり、その会場に行けば見ることができる。

2)長尾詩子(弁護士・東京南部法律事務所)
 大田区における取組みを紹介する
 まず4年前に育鵬社教科書が採択されたことについての総括
@情勢分析
 憲法改悪に進む安倍内閣においてそれに沿った教科書を採択させる攻撃が強まっていることについての情勢が十分に把握できていなかった。
 教育委員に信頼できる弁護士がいて大田区では採択されないという思い込みがあったし、教育委員に日本会議所属の委員がいることも知らなかった。
 また、教科書展示会の市民のコメントでは育鵬社賛成が79(テンプレ的回答)だった。明らかに動員があったのだと思う。数としても、こちら側が負けていた
A主体の問題
 民主団体・事務所が個人加盟の会に運動を任せてしまっていた。

以上を踏まえての運動方針として
 まず、主体を個人加盟の大田区民の会だけではなく、個人・団体加盟の大田こどもの教育連絡会(通称、「子ども連」)を再開し、運動を進めている。

 これまでの取組としては、2014年10月24日に教育子育て9条の会のつどいがあった。小森陽一さんが司会で、堀尾輝久さん・白神優理子さんがパネリスト。約150人参加。ここで大田区では来年教科書採択が問題になることをアピールした。
 2015年2月1日、子ども連中心に実行委員会形式で、2・1教育の集いを行った。約400名参加。東京新聞に事前に告知記事が出た。facebookでも広げ、憲法カフェで知り合った人なども対象に広げた。

 今後夏までのイメージは、レジュメ参照。

学習会の講師活動でのポイント
 教科書そのものを見てもらうことが重要(教科書コピーの準備等)
 たとえば「南京事件」と表記、実態に触れず「論争が続いている」にとどまる記述であることに触れる
 日本国憲法の章のトビラが天皇、大日本帝国憲法を「深める」ような記述がなされている
 国民主権で天皇の記載が多い、
 平和主義 自衛隊の写真、他国憲法に規定される国防の義務をわざわざ紹介する
 憲法改正するのが前提、どう改正するのか、という方向での記述をしている
 ※自民党改憲草案を通すための教科書、草案を対照すると理解してもらいやすい

3)大山圭湖(東京都教職員組合副委員長)
 教科書は教職員だけのたたかいではなく、憲法の理念を生かし、平和を守る子どもを育てるために大切なものとして、住民運動としてひろげるスタンスをとっている

どの地域もあぶない
 地方教育行政法改悪で、大田、武蔵村山だけではなく、どの地域も教科書採択の危険がある

推進勢力が「草の根作戦」をしかけている
 首長・議員に申入れをしたり、議会に決議を上げさせるなどの動きを強めている。総力戦になる

戦争をする国づくりにストップをさせる。
 自分たちの問題として取り組んでいく必要がある

取り組みの方向 展示会・教育委員会の傍聴採択制度の改善を求める
(例)
 教師の時間確保、教科書を読む時間・問題点を研究できる時間を確保できるようにする
 教師のまとめる調査研究報告書は、よいところだけでなく問題点をかけるように制約をなくす
 保護者・市民が展示閲覧しやすいように時間・会場を増やすよう要求する
 教育委員会に対して希望多数でも傍聴できるよう広い会場の準備を求める

 新婦人の「教科書カフェ」や三多摩の会1分でよめる「1分間ニュース」配布などの工夫が広がっていることをニュースなどで交流し、多くの人々の力で、「子どもたちによりよい教科書を手渡すためのとりくみ」を、スピードを上げてすすめたい。

 
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