自由法曹団 東京支部
 
 
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原子力問題を議論するために最低限必要な専門用語集

2011年8月26日
弁護士 河村 洋


 私は、文系学部の出身で、原子力や放射線に関する専門的教育を受けたことはありませんが、複数の政府系機関のウェブサイトの用語解説等と原発反対派の科学者(元京都大学原子炉実験所助手)である瀬尾健氏の本から引用して、又はこれらを参考にして、以下の専門用語集を作成しました。用語の取捨選択、叙述の順序は瀬尾健氏の本を参考にし、用語解説は各ウェブサイトの叙述を引用しています。
 参考とした文献・ウェブサイトは次のとおりです。



 各項目の第1段落の記述の出典は、断りがない限り、(独)放射線医学総合研究所「放射線Q&A」である。かぎ括弧で引用してある箇所の出典は、すべて瀬尾健『原発事故…その時,あなたは!』(風媒社)である。下線は筆者が引いたものである。

第1 原子の基礎

  • 原子:物質が化学的に元素としての特性を失わない最小の構成単位。陽子と中性子でできた原子核とその周囲を動く電子からなる。原子の大きさは電子の領域も含めるため10-10mぐらいとなる。
    水素原子だと約1億分の1pとなる。
    「陽子の数と原子核の周りの電子の数がつりあって、全体として中性の原子になる。」
  • 原子核:原子の中心に存在しているもの。原子の質量の大部分は原子核のものである。原子核の大きさは約10-14mで、電荷をもつ陽子と電気的に中性な中性子から構成されている。原子番号Zの原子核は陽子数がZ個存在し、陽子数と中性子数Nとの和を質量数A(=Z+N)という。原子核を構成している陽子及び中性子は核子と呼ぶ。
    「原子核の大きさは原子のさらに1万分の1以下というから、原子の大きさを直径100メートルのグラウンドにたとえると、原子核はビー玉ほどしかないことになる。」
  • 電子:原子核とともに原子を構成する素粒子の一つ。原子核のまわりを回っている電子を軌道電子(殻電子または束縛電子)といい、単独で存在している自由電子とは区別されている。電子は電荷を持ち、静止質量はme=9.1094×10-31kg(陽子や中性子の約1/1800)である。電子には陰電子(e(-))と陽電子(e(+))の二種類があり、陽電子は正の電荷をもっているが、通常電子といえば、陰電子のことを示す。出典:(独)放射線医学総合研究所「放射線Q&A」
  • 電子の働きについて:「電子は1億分の1p程度の空間を雑然と飛び回っているわけではなく、ミクロの世界を支配する量子力学の法則に従って、がんじがらめに束縛されているといったほうが正しい。・・・隣り合う原子同士の結び付きは、この電子の相互往来や相互作用によって起こる。だから原子核と原子核の間の距離は、普通の場合決して1億分の1cm程度以下に縮まることはないのである。私たちが日常生活で経験するいろんな物質の変化、氷が解けるとか、砂糖が水に溶けるとかの単純な変化から、生物の発生、生長、腐敗などの複雑な変化に至るまで、すべてがこの電子の配置の変化によって起こっているのである。したがって物質の性質というのはこれらの電子の配列に支配されているのであ」る。
  • 陽子:原子核を構成する素粒子の1つ。中性子とともに各種の原子核を構成している。質量=1.67252×10-27kg。+1の電荷を持っている。出典:(独)放射線医学総合研究所「放射線Q&A」
    「物質の性質は電子の状態で決まると述べたが、単一の原子の場合は、その電子の状態は中心にある陽子の数によって支配される。だから原子の個性は、陽子の数によって決まるといえる。」
  • 原子番号:原子核中の陽子の数。陽子の数によって元素の種類、元素の性質(酸やアルカリを加えた時の反応や、酸化させた時の反応等)が決まるので、元素の種類を表す番号ともいえる。
    「92番〔ウラン〕を超える元素は、すべて原子炉の中か加速器で人工的に作られたもの」
  • 中性子:原子核を構成する素粒子の1つ。ニュートロン(nとも書く)という。電荷は0、質量は1.6749×10-27kgで、陽子や(陽子+電子)よりも重い。単独の状態では不安定で、半減期12.5分でβ崩壊して陽子に変わる。原子番号0として扱われる事もある。
  • 質量数:「中性子と陽子とはほとんど同じ重さだから、両者を合わせた総数は、その原子核の重さを表す目安となる。この数のことを質量数と呼ぶ・・・」
  • 同位元素(アイソトープ):元素の種類(原子番号、陽子数)が同じでも中性子の数が異なるもの。原子の重さが違う。
    「中性子は電気を持っていないので、その数が違っても外側にある電子の数に影響は与えない。つまり陽子の数さえ同じなら原子としての性質はほとんど変わらず、化学反応においてもほぼ同じ挙動を示す。だから、化学的性質がそっくりで、それでいて中性子の数が異なる兄弟原子核が、それぞれの元素に存在し得る。これを同位元素、英語では、アイソトープと呼んでいる。」
    「天然ウランは、ウラン238が99.274%、ウラン235が0.72%、ウラン234が0.0058%の割合で混ざったものである。このうち、原子炉で燃料として使えるのは0.72%しかないウラン235だけで、残りのほとんどのウランはそのままでは核燃料として役に立たない代物である。」

第2 放射能と放射線

  • 崩壊(壊変):原子核が不安定な状態から、放射線を出して別の原子核または安定な状態の原子核に変わっていく現象を壊変または崩壊という。放出する放射線によってα壊変、β壊変、γ放射という。(出典:財団法人原子力安全技術センター「原子力防災基礎用語集」)
    「たとえば中性子数33のコバルト60〔陽子の数27〕は、中性子の数が多すぎるので、その中のひとつが電子を作り出して外に放り出す。もともと中性だった粒子が、マイナスの電気を持つ電子を作り出すわけだから、自分はプラスにならざるを得ず、結局陽子に変わってしまう。つまり、コバルト60は電子を1つ吐き出すことによって、陽子が1つ増え、中性子が1つ減ることになる。中性子の数がどう変わろうと原子の性質に変化はないけれども、陽子の方が1つ増えると、原子番号が1つ上がるから、27から28、つまりニッケル60に変わってしまうわけだ。」「いまここで述べた、コバルト60がニッケル60に変わる現象を、われわれは崩壊と呼んでいる。」
  • コバルト60の例で放射線(ベータ線とガンマ線)の発生を説明:「コバルト60は崩壊してニッケル60に変わるが、このとき、電子を1つとエネルギーの塊2つを放出する。この電子のスピードはものすごいもので、時速6億キロにも及ぶ。光は時速11億キロ足らずだから、実に光速の半分以上もの猛スピードである。原子核の中からこんなふうに飛び出してくる猛スピードの電子をベータ線と呼んでいる。」
    「ベータ線を出した後に2つ飛び出してくるエネルギーの塊というのは、実は光の仲間で、普通の目に見える光と違う点は、エネルギーがべらぼうに大きく、およそ10万倍から100万倍にもなるため、まるで粒子のように振舞うことである。これをガンマ線と呼んでいる。」
  • 放射線:ウランなど、原子核が不安定で壊れやすい元素から放出される高速の粒子(アルファ粒子、ベータ粒子など)や高いエネルギーを持った電磁波(ガンマ線)、加速器などで人工的に作り出されたX線、電子線、中性子線、陽子線、重粒子線などのこと。(出典:財団法人原子力安全技術センター「原子力防災基礎用語集」)
  • 放射性物質と放射能:放射線を出す能力を放射能といい、放射能をもっている原子(放射性核種という)を含む物質を一般的に放射性物質という。また、個々の核種を限定しない場合は、放射性核種のことを総称して放射性物質ということもある。放射性物質、放射線及び放射能の関係は、「電灯」が放射性物質に、電灯から出る「光線」が放射線に、そして電灯の「光を出す能力」と「その強さ(ワット数)」が放射能にあたる。(出典:財団法人原子力安全技術センター「原子力防災基礎用語集」)
  • 透過作用:放射線が物質を透過(貫通)する性質
  • 電離作用:物質を透過するさい、その物質を作っている原子や分子にエネルギーを与えて、原子や分子から電子を分離させる性質。
    「物質に放射線を照射すると電離作用により、物質を構成している原子、分子の電子が外側へ叩き出されるので、原子、分子はイオン化したり、あるいは分子間の化学結合が切れたりします。」(大塚徳勝・西谷源展『Q&A放射線物理・改訂新版』(共立出版)
  • アルファ線:アルファ線は、放射線の一種で、陽子2個と中性子2個からなるヘリウムの原子核と同じ構造の粒子である。物質を通り抜ける力は弱く、衝突した相手を電離する能力が高いため、自分の持つエネルギーを急速に失い空気中では数センチメートルしか進めず、紙一枚程度で止めることができる。アルファ線は、放射線の一種で、陽子2個と中性子2個からなるヘリウムの原子核と同じ構造の粒子である。物質を通り抜ける力は弱く、衝突した相手を電離する能力が高いため、自分の持つエネルギーを急速に失い空気中では数センチメートルしか進めず、紙一枚程度で止めることができる。アルファ線を人体外部で受けた場合、アルファ線は皮膚の表面で止まってしまうため、人体への影響はほとんどない。しかし体内にアルファ線を放出する放射性物質を摂取した場合、その物質の沈着した組織の細胞が集中してアルファ線の全エネルギーを受けるため人体が受ける影響が大きい。(出典:財団法人原子力安全技術センター「原子力防災基礎用語集」)
  • ベータ線:ベータ線は原子核の壊変にともなって、原子核から飛び出す電子のことで、マイナスの電荷を持っているものと、プラスの電荷を持っているものがある。ベータ線の物質を透過する力はアルファ線より大きいが、ガンマ線より小さく、厚さ数mmのアルミニウムやプラスチックで止めることができる。(出典:財団法人原子力安全技術センター「原子力防災基礎用語集」)
  • ガンマ線:原子核の壊変によって原子核から放出される電磁波をガンマ線という。不安定な原子核がアルファ線やベータ線を放出した後に、さらにガンマ線を放出してより安定な原子核に移行する。ガンマ線は物質を透過する力がアルファ線やベータ線に比べて強く、遮へいをするには、厚い鉛板やコンクリート壁が必要である。(出典:財団法人原子力安全技術センター「原子力防災基礎用語集」)
  • 半減期:原子核が壊変して、放射性同位元素の原子数が半分に減少するまでの時間のことを半減期という。半減期には、放射性核種によって秒以下から数十億年まである。生物(学)的半減期、実効半減期と区別するために物理的半減期とも呼ぶ。(出典:財団法人原子力安全技術センター「原子力防災基礎用語集」)
    「崩壊確率〔各放射性原子核について固有のものである。〕が大きいほど半減期は短く、崩壊確率が小さいほど半減期は長い。」
  • ベクレル:放射能の量を表す単位のこと。1ベクレルは、1秒間に1個の原子核が壊れ、放射線を放出している放射性物質の放射能の強さ、または量を表す。(出典:財団法人原子力安全技術センター「原子力防災基礎用語集」)
    「この言葉〔放射能の強さ〕は誤解を招きやすいが、これは放射線の強さ(エネルギーの大きさ)とはまったく関係がない。あくまでも1秒当たりの崩壊の数なのである。これはまた、そこから出てくる放射線の個数とも違う。なぜなら1個の崩壊で出る放射線の数は、原子核が違えばみな違うのが普通だからだ。」
  • シーベルト:人体が放射線を受けた時、その影響の程度を測るものさしとして使われる単位である。放射線の種類やそのエネルギーによる影響の違いを放射線荷重係数として勘案した、臓器や組織についての「等価線量」、さらに人体の臓器や組織による放射線感受性の違いを組織荷重係数として勘案した、全身についての「実効線量」がある。(出典:財団法人原子力安全技術センター「原子力防災基礎用語集」)

第3 人体への影響

  • 放射線がなぜがんを誘発するのか:「広島大学放射能対策基本情報ポータルサイト」参照
  • DNAが二重らせんのときは非常に安定的。しかし、DNAの二重らせんが、細胞分裂を行うときに、1本となり、この状態のときに、放射線によりDNAが切断されると、非常に危険。それゆえ、妊婦の胎児、幼い子ども、また大人でも増殖のさかんな細胞(髪の毛、白血球、腸管上皮等)は放射線障害が生じやすい。
    遺伝子が一つ変異するだけでは、がん化しない。最初は増殖性の変化であり、それに転移しても死ななくなる変異がおこり、がんになる。(平成23年7月27日衆議院厚生労働委員会における児玉龍彦(東京大学先端科学技術研究センター教授 東京大学アイソトープ総合センター長)参考人の発言)
  • 白血病:白血病は「血液のがん」であり、増殖する細胞が未熟か成熟しているかにより急性と慢性に、また発生の起源により骨髄性とリンパ性に大別される。日本での発生率は全体として10万人当り4人程度で、男女差は殆どない。発生頻度の最も高いのは急性骨髄性白血病(60%)であり、次は急性リンパ性白血病(25%)である。小児に多いのは急性リンパ性白血病である。放射線によって誘発されるのは慢性リンパ性白血病を除くその他の白血病である。発症の時期については、被ばくしてから2年経つと増加が始まり5〜8年後に発症ピークがあり、20年後にはほぼ全国平均レベルまで下降している。他の被ばく集団においても、予測値より高い値が認められており、放射線被ばくによる白血病の誘発は疑いのないことと言える。(出典:財団法人原子力安全技術センター「原子力防災基礎用語集」)
  • 甲状腺がん:甲状腺は、ヨウ素を含む甲状腺ホルモンを分泌して、新陳代謝や成長・発育を促進する重要な内分泌器官である。甲状腺がんは、老齢者では、潜在がんとして存在している。甲状腺は、放射線に対して感受性が高く、被ばくすると、比較的低い線量から甲状腺がんの増加が見られる。放射線被ばくと関連した甲状腺がんの致死率は低い。原爆被爆者で甲状腺がんの罹患率を用いた解析が最近行われ、線量・反応関係が明らかにされた。リスクは女性に高く、かつ、被ばく時年齢が若い者ほど高い。(出典:財団法人原子力安全技術センター「原子力防災基礎用語集」)
    なお、チェルノブイリで小児の甲状腺がんの増加を証明するのに20年かかった(4000人発症、15人死亡)。1986年チェルノブイリ原発事故→2005年WHOで因果関係を承認。(平成23年7月27日衆議院厚生労働委員会における児玉龍彦参考人の発言)
  • 内部被爆のデータは極めて少ない:「この根拠〔生涯100mシーベルト〕となった科学的知見については、収集された文献に内部被ばくのデータが極めて少なく評価を行うには十分でなかったため、外部被ばくも含まれた現実の疫学データを用いることとしました。」(食品安全委員会「食品安全委員会委員長からのメッセージ」)
  • 100mシーベルト以下なら安全というわけではない:「なお、100mシーベルト未満の線量における放射線の健康への影響については、放射線以外の様々な影響と明確に区別できない可能性や、根拠となる疫学データの対象集団の規模が小さいことや暴露量の不正確さなどのために追加的な被ばくによる発がん等の健康影響を証明できないという限界があるため、現在の科学では影響があるともないとも言いえず、100mシーベルトは閾値(毒性評価において、ある物質が一定量までは毒性を示さないが、その量を超えると毒性を示すときのその値。「しきい値」ともいう。)とは言えないものです。」(同上)

第4 原子力発電

  • 発電の仕組みと放射性物質ができるわけ
    「ウラン235の原子核の原子核が中性子を吸収してウラン236になり、それが2つに分裂するという反応、核分裂反応が連鎖的に持続している。そしてこの核分裂の際にエネルギーが発生するのである〔このエネルギーで水を沸騰させ、発生した蒸気で発電機のタービンを回して、電気を作る。〕。分裂はほぼまっ二つに起こるが(実際には幾分大小に偏っている。)同時に余分な中性子が2,3個飛び出してくる〔この新たな中性子が他のウランの原子核に当たることで、次々と核分裂を引き起こす。このことを連鎖反応という。〕。分裂の結果できる2つの、それぞれ元の半分くらいの重さの原子核は、特に決まったものができるわけではなく、いろいろなものがそれぞれの確率でできる。そしてほとんどの場合、これらは不安定で、したがって放射性である。」
  • 臨界と制御棒
    「原子炉の中で中性子の数が増えも減りもしないで、一定の反応が持続している状態を臨界と呼んでいる。そうではなくて、場合によっては中性子がどんどん増えていくこともありうる。この状態を超臨界といい、きわめて危険な状態である。」
    「原子炉というのは、この中性子のバランスを微妙に調節して、一定の出力に保っている装置である。この微妙なコントロールをやるのが制御棒といわれるもので、中性子を非常に吸収しやすい物質で作られている。」
 
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