自由法曹団 東京支部
 
 
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団支部の活動紹介

サマーセミナーin甲府の記録(その2)


自由法曹団東京支部サマーセミナー「裁判員裁判を考える」支部長挨拶

支部長 藤本 齊

 みなさん、暑い中よくお出でいただきました。パネラーのみなさま、色々なご準備からはじめ今日は本当に有難うございます。
 先週から今週にかけて、うちの事務所の若手弁護士達は異常なハイテンション状態にありました。うるさいったらない。事務所の初めての裁判員裁判の7日間5回法廷の前後です。ここにもいる上原さんら弁護人として直接法廷に立った若手だけでなく他の若手も続々傍聴席につめかけ全員が異常な興奮状態にありました。もう一人の弁護人の横山さんなんか、公判数日前からもう3時間睡眠位でも尚1週間ピンピンしてましたね。本人も寝てないことの自覚もなく、元気元気。もう、アドレナリンどころかドーパミンとエンドルフィンと、あらゆる脳内麻薬の全開状態、ラナーズハイの延々たる持続状態でしたね。
 その高揚感とうるささを見ながら私は改めて強く思いましたね。やはりこの制度には、弁護士どもの本能、弁護士魂に、実に強く訴え、その力能を極限までも引き出そうとする力が奥深く宿っているのだと。それは、直接には、口頭主義・直接主義が裁判に持つ決定的な重要性を、誰より弁護士らが体でも感じてきたところからだと思いますが、しかし、このことが指し示している射程はもっと広くもっと深いものでもあるはずだと、強く予感させます。弁護士の真骨頂がそこにあるというだけでなく、特に若い弁護士がみなこうだったということは、この制度が広く人びとの大切な力能を引き出す力をも持っていることの証左である可能性が強いと、改めて思わせられます。
 口頭主義・直接主義の形骸化については印象深く思い出すことがあります。40年近く前、私が修習生だったとき、どっちのだったか忘れたが私のクラスの裁判官教官があるとき、教壇から「証拠調べはどこでやるのだと思いますか?」と首をかしげながら問いかけて来ました。これで、「法廷で。」と即「正答」するほど我々のクラスも単純バカではなかった。暫くして誰かが小さな声でボソッと「家で、ですか?」といったら、「そうなんだよねえ。宅調日に家に持ち帰ってやるんだよねえ。」と。ま、このとき彼がはにかんだ顔でそういったか、職人的誇らしげな顔でだったか忘れましたが、比較的好きだった民裁教官の方だったら前者だったろうし、あの人の言いそうなことでした。責めを問われれば冗談と逃げるが、本気で憂えてもいたのでしょう。
 証拠は密室で作るもの、証拠調べは家に持ち帰って行うものという時代だったのです。法廷が、従って直接主義も口頭主義もが形骸化させられつつありました。
 自由法曹団がその伝統とする大衆的裁判闘争は、直接主義・口頭主義が窒息させられつつある状況の中でも、それらの精神を、少なくとも傍聴席と運動体等との関係でも何よりも重視し、それによって、裁判の公開の原則を、少しでも実質的に拡大することに努めてきました。その力によって主戦場である法廷の外と中を有機的に繋げてたたかうことを目指して来たのです。戦前の法廷から、また占領中の軍事法廷から、現在の裁判まで、団は、どの様な制度の下でも、この視点に向けてたたかってきたのです。
 若い団員達の超興奮状態を間近に見ながら、この制度が、先に言った様な時代からの決別へのひとつの契機たりうる可能性を持つことを改めて強く感じました。一方、色々な検討課題も指摘されて来ています。実施後、既に1年数ヶ月。実践の中での見直しに向けた検討もが同時に遂行されていくべき時期を迎えつつあります。
 さだまさしが、“Rubicon river♪”と歌う「その橋を渡る時」という歌があります。「この橋を渡る時必ず一度は振り返るだろう置き去りにしてきた大事なものを深く自分に刻むためにしかし、もう二度とそこへは戻らないとの決意を改めて固めるために・・・」という思いを歌います。
 裁判員制度は、新制度である以上、最高裁や法務省や自民党政府や等々との様々な妥協なしには来れておりません。あれもこれもとはいかない中で、あれかこれかで切ってきたものでもあります。だから、一度振り返る必要がどうしてもあります。しかし同時に、再び、あの、証拠は密室で作るもの、証拠調べは(宅調日に)家でやるものという、あの時代に戻らせてはならない、その深い決意も新たにしたいと思うのです。
 さあ、充実したセミナーを始めましょう。

(セミナー記録の扱いについて)
内容が極めて大量で濃密なため、支部ニュースでは概要に留め、資料等も含めた特別報告集を本部総会までに発行します。

第1部
講師紹介
 浦崎弁護士(58期)千葉の法テラス事務所に勤務。覚せい剤取締法違反事件の裁判員裁判で全面無罪を勝ち取りました。
 一瀬弁護士(48期)団員で、多摩地域で多くの刑事事件を担当され、強姦事件の一部否認の厳しい裁判員裁判事件を担当したことをご報告いただきました。
 後藤昭教授(一橋大学)研究者の見地から、個々の事件の分析と、これからの裁判員裁判についての見直し議論についてアドバイスいただきました。
 田岡弁護士二弁刑事弁護推進センターで、弁護士の裁判員裁判の取り組みを強化し、弁護の質を高めるための模擬裁判などを担当されました。

(概要)

  1.  まず、浦崎さん担当の無罪事件について報告を受けました。
     事案の概要は、日本人男性が袋入りの偽造パスポートの運び屋を頼まれるのですが、本命はお土産といって渡されたチョコレート3缶の中の覚せい剤で、成田で発覚し逮捕勾留された事案です。
     チョコレート3缶に覚醒剤約1キログラムを持ち込んだが,全く覚せい剤が入ってい浦崎寛泰先生ると知らなかったので故意を否認し無罪を主張しました。昨年11月に摘発され,公判は今年6月でした。ご存じの通り、無罪を勝ち取った事案でした。
     検察側の決め手は不自然な重さであったことが最大のポイントで、正規のチョコの缶の重さは700 g、覚せい剤が入ると1kg。しかも手荷物でなくかばんの中に入れて運んでいるのでかばんに入れる時にしか重さを実感していない。公判前整理手続で検察側が「不自然な重さ」と主張したことに対して求釈明を徹底し、何と比べて不自然なのか、どういう証拠から不自然と言うのかなどを詰めた結果功を奏したという印象でした。
     同じチョコを自分用の土産にも買ったのですが、それは機内持込手荷物で、持ち比べる機会もなかったことからも、検察の主張が崩れてゆきます。
     税関職員が挙動を疑ったのも、そもそも偽造パスポートを持っていることから当然ですし、税関でも要注意人物扱いだったので、税関職員の不審視も当然で、有罪の証拠とはなりません。
     供述の変遷という弱みはあったのですが、パスポートの依頼をした人物甲をかばってのことでした。自分は密輸という重大なのに他人をかばうかを,手厚く説明し成功しました。
     それからパワーポイントを使って弁論を実演していただきました。
     続いて田岡弁護士にコメントをいただきました。
     「裁判員裁判が良い方向で働いたと思います。裁判官の裁判だった時には「重さの違いがわかったはず」となりえたかもしれません。裁判員はその裁判に集中し、起訴されていない別の犯罪については判断しないことがいい結果をもたらしている。事実関係には争いがない事件で証拠は検察官が出したものでほぼ決まりでした。求釈明すなわち主張の時点で確定させているところがポイントと言えるでしょう。「重さが不自然」との,根拠を明らかにさせしぼらせた,正規の缶との比較や,税関の感覚のズレが際立ったところでした。証明予定事実で、検察が正規の缶を手荷物バッグに入れていたと事実誤認しており、持ち比べる機会が実際にはなかったというミスを的確に弾劾しました。
     技術的な面では、いろんな法廷で弁護人の評価が低いのですが,確かにばらつきがあります。検察は一枚の用紙で説明します。裁判員はメモとりたがり,資料もほしがります。一種ペーパーに基づく裁判の要素が復活しているみたいです。弁護人も見劣りしない資料作成と弁論の実演ができる必要があります。検察官の向こうを張ってノウハウを蓄積し共有してゆかねばなりません。」
     また、後藤先生からは以下のようなコメントをいただきました。
     「完全な無罪判決で,歴史的な判決と言えるでしょう。裁判官がやっていたらどうでしょうか。裁判官と話してみて,ちゃんとした人がやれば裁判官裁判でも無罪かも知れない、裁判員だからという断定はできないかもしれません。ただ、関心持ったのは事後の報道で「証拠が足りない」という感想がありこれは裁判員らしい。やはり他事件への影響など余計な心配をしないでよい裁判員らしさが発揮された無罪判決と言うべきでしょう。
     検察側が控訴したと聞いていますので、控訴審がどうなるか心配です。そもそも裁判員裁判で,裁判官の論文を基本とする限りではこれが逆転無罪になるようなことは無理だと思うが,東京高裁刑事9部という特長ある裁判官のいる部にかかったと聞いており、気にしております。
     このあと、質疑応答がありました。覚せい剤の密輸と偽造パスポートの密輸の報酬の対比や、裁判員の雰囲気、弁論でのパワーポイントの使い方、弁論の経験等について質問が出ました。
  2.  続いて一瀬団員から住居侵入強盗強姦未遂一部否認事件のご報告をいただきました。
     立川支部の事件で、むしろ失敗した事件という感想です。というよりもともと期待できない事件というべきですか。6月15日起訴,7月3日選任でした。公判は2月18日から24日までの5日確保,土日をはさんで,おり比較的時間に余裕がありました。
     事案の概要は、清瀬で無人の野菜売り場の料金箱をあさろうと徘徊していて、結局空き巣にはいり、中で女性がいたので逃亡して追いかけてこられないように服を切り裂いてテープで手足を縛った、女性はその際に陰部に指を入れられたので強盗強姦未遂とされた事案です。逮捕時には被告人はズボンを下ろしており、靴も脱いでいました。
     事件を受けて被告人の弁解を聞いた時に、空き巣はありうるが「拘束」までありうるのか、着衣を切るのはわいせつ的な意図だろう,逃げるため,裸にすれば追ってこないと言うが、男にそもそも追ってくるのか,という疑問を持ちました。逮捕時にズボンがひざまで下がっていた,くつがそろえてあったのも奇異な弁解と感じられました。しかし、警察の失態も大きく、警察官は玄関で拘束しましたが,捜査員がくるまでの現場の写真がない状態でした。また、被害者が現場で保護され,女性警察官に指まで入れられたと供述しながら,被告人の指の検体がなく,検体採取がされていない,相当時間経過後被告人の手の指の検体を行いましたが手を洗ったりしており,体液は検出されなかった。また、被害者は強姦されまいとして意図的に排尿したというのですが,被害者の下着等の鑑定あるかと思ったが,適切に鑑定がされていないというポカがあり,結局,脱がされたあとに排尿したかも,勘違いですねということで決着しました。
     「住居に侵入し、女性の着衣を切っておいて強姦の意図なかった」というのをどうやって裁判員に理解してもらえるのか,悩みました。否認を自白事件にしようかと思 ったこともある,被告人は「それでは認めようか」というのですが、改めて聞くとやっていないということで最後まで本人が「住居侵入,強盗は認めてそれ以外やっていない」というところから動きませんでした。
     検察の証拠は、類型開示のほか,任意開示を受けました。記録の厚さ10センチ弱のところ3分の1が類型,任意が残りでした。証拠請求は結局2センチ分くらいで,調書や報告書でした。残りは不同意にして被害者,警察官尋問を行いました。
     裁判員はパソコンで選任されるようで,検察弁護とも立ち会って選任しましたが、男女3名ずつで,年齢的にも20代,30〜40代,60代くらいと揃いました。
     裁判員は、真剣に聞いていました。被害者尋問は,被告人を弁護人の隣に座らせ,遮蔽して実施しました。裁判員からは被害者がよく見え,裁判員の女性は涙浮かべそうになっていました,これは厳しかったです。
     量刑検索ができるので類似事件を見ましたが、同種前科ありで8〜10年,なしで5年6月でした。5年以上はありえない,意見としては5年相当と弁論したところ、求刑12年,判決は公訴事実のとおり,10年でした。
     裁判員は真剣に事件に参加していました。一般の人を集めたと思ったのでいいかげんな審理をしているのではないかと思っていたが、全く誤解でした。裁判員裁判だからと言って弁護人として特別なことはないのではないでしょうか。わかりやすくやるということは同じでは。

     一ノ瀬団員の報告を受けての田岡さんのコメントです。
     自分も求刑ごえの判決を受けました。裁判員制度になったからと言って刑はそれほど変わっていないのではないかと思います。基本は求刑7から8割,思ったほど重くなっていない。過剰な反応があれば裁判官が引き戻すのかもしれません。ただ、性犯罪については重くなっているのですが、これはそもそも性犯罪への法廷刑が軽すぎたのではないかと思います。また、裁判員は更生可能性に注目しているようです。介護疲れの挙句のものは猶予がつくことが多い、反省していないのは重く評価するという傾向はあるでしょうか。何でも主張すればよいということはないと思います。冒陳,弁論では情状をもっと重点を置いた方がよいのではないでしょうか。本件は強盗で,理由はともあれ服を切っています,強姦と取られることは防ぎ難いのでしょう。裁判員としては致傷か殺人未遂かの分類は関係なく、量刑が問題と考えるのです。検察はは安心,統一的,で一方弁護人は場当たり的と思われているようです。

     同じく、後藤先生のコメントです。
     量刑傾向は、必ずしもデータが十分ではないでしょうが、重いのは否認したからか,性犯罪だからかは分からないですね。わいせつは認めて強姦は否認するというのはどうだったでしょうか。でも、被告人が言ってくれなくてはできないですから、弁護人にとっては難しいところです。昔は被告人がどういっても弁護人が一方的に「こういう風にやるんだ」ということがあったかもしれませんが、今はそうしない。法曹倫理でもそう教えていないでしょう。専門家としての合理的な判断をどう伝えるかが難しい事案でした。裁判官は、被告人は弁解するものだと思っているが,弁護方針の選び方について、依頼者との関係で方針のたてかたが重要になってきています。
     裁判員は刑罰の効果に期待しているのではないでしょうか。重くしたら事件が減るのではないか,保護観察は役立つのではないか,と期待しているようです。むしろ法律家は冷めています。更正するためには刑務所に入れない方が良いと考えます。この点で議論・対話ができているのでしょうか。これは「何のために刑法があるのか」という哲学的な問題です。刑罰を重くしたら犯罪が減るわけではないというところでは,裁判員に正しい刑罰観をもってもらうように教育する必要があるのかもしれません。

     その後、質疑応答で、本件の情状のポイント、有利な情状を作ることの困難な事案の対策、行為責任から行為者責任に移行している可能性はないか、裁判員は被告人の人柄・経歴など知りたがり特別予防の観点が強い、再犯の可能性を否定すれば軽くなりうるのではないか、刑務所の情報集めようと更生プログラムの提示を求めたが全部断られたなどの議論がされた。

 第2部:2年後の見直しのために団支部として何ができるか

 弁護士会の現状として田岡さんからの報告をいただきました。
 見直しは2年後に迫っており、共通認識を持つことが大切なので,分かっている範囲の情報を報告します。
 件数は多くない,予想より少なく1898件です。予想されていたナビと見比べますと(データ編),当初3800件のところが1900件で,半減しています。昨年急に減ったわけではなく対象事件は一貫して減っています。
 強盗致傷でいえば1100件が500件です。
 件数が戻ったのが覚醒剤で,持ち直しているというか最近増えています。その結果、千葉だけが予想件数に届いている状態です。
 東京本庁は千葉より少ないので,本庁は4部刑事部をへらし,21部から17部となります。その分の人員などは千葉へまわすことになるそうです。
 一部起訴の問題が指摘されていますが実際は少なくなっています。厳しくても起訴に踏み切る姿勢です。期間は、起訴から判決までは予想より短くなっています。しかし、ずっと公判前整理手続をやっているところがあり,全般的傾向かはまだ分かりません。そして、第1回から判決までの実審理時間が短すぎるという批判が出ています。半数が3日で終わっている,4割位が当初予定より少ない,短いという感想が多いです。中に強盗殺人でも,十分評議できなかったという感想がでています。3日は短いという感覚です。
 裁判所が一生懸命スケジュールを立ててその通りに予定どおりに終わらせている感じです。仮に陪審となれば、審理がどれだけかかるかはわからない。裁判所は裁判員には9時半登庁5時退庁にこだわり、裁判員がもっと協議したいという要望にも応じないようです。
 なんとか評議をまとめることに専念し、評議の途中で休憩をいれたり,土日を挟むということもやっています。
 公判前整理については時間がかかっている,もっと早く進めたい。そのために、検察に任意開示で出せるものは出せと言いますし,弁護側にも類型証拠開示がまだといっても暫定的主張をだせだせと迫ってきます。公判前整理の2回目くらいには日程を予約させるようなせかしぶりです。
 弁護士の弁護活動の関係では「わかりやすさ」の批判があります。そもそも「被告人を擁護する」ということの弁解の難しさ、古くて新しい課題ではないでしょうか。ききとりづらい,文字が多い,表がわかりにくいなど、検察とも対比されて努力がまだ不足しているということでしょうか。ただ、個人の活動としてやってゆくと大変な作業です。
 評議の関係では、資料を裁判所において帰る仕組みですが、東京地裁では、検察はパブリッシャー1枚で実施します。パワーポイントは記憶に残らない,紙なら評議に持って行けるからです。
 8割が勤め人ですから紙の方がわかりやすい。そうなる紙を説明することに一生懸命になり、新たな書面主義のようにも思えます。弁護人はペーパーレスだったり紙を出したりで評価はばらついています。
 裁判員の出頭については、事前の出頭免除理由が広く半数がこない,呼び出しのところでかなり減っている,仕事が忙しい,高齢と言えば広く認められるという話が出ています。
 裁判員をやった感想としては非常に良い経験だが9割,当初やりたくなかったがやって良かったといっている人が多い。やりたいという人はむしろ困る人が多い。法学部出身の人とか法律論を妙に振り回す人もいるようです。一方普通の人がぼそっと良いこといったりする。官ではありえない判決もありました。先の放火の事件で5時間20分の間,他の人が放火した可能性があるとするなど。
 2件が検察官控訴されています。間接事実しかない場合でも有罪とされています。
 責任能力を正面から争った事件はまだありません。
 被害者参加の事件では被害者参加ゆえにおもいということはないようです。
 情状の面では、若年,前科なしとかが評価されない,弁償はして当たり前という評価です。

 後藤先生からのコメントです
 想定された範囲内の運用ではないかと思います。責任能力や死刑求刑はこれからです。うまく審理・判決できるか問題でしょう。すべりだしの評価としては間違っていないと思います。
 裁判員裁判が日本社会に何をもたらしたのか。1号事件はマスコミが注目しました。裁判員が上を向いたとか下を向いたまで報道され,一つの刑事事件にこれほど注目されたことは珍しいのではないでしょうか。裁判員制度ができたことによって刑事司法の関心が高まったことは間違いないでしょう。
 望ましい変化であろうが,問題になりうるのは一般市民の感覚がストレート過ぎて,合理的な運用が難しくなるのではないかという点です。ポピュリズムという弊害のおそれ,専門家にまかせているからということで通らなくなります。「専門家」の役割はより重要になった,弁護士だけでなく,法律研究者にとってもそうだと思います。
 運用の具体的問題点としては、審理期間は予定どおりかと思うが,通りすぎる,ゆとりをもって,早めの判決が起きてもよいのでは,評議の時間が予定よりかからないこともあるでしょう。裁判所がスマートに行くのに気を遣い過ぎているようです。もっとはばというか許容度を持った方が良いのではないでしょうか。裁判員には不満を持たれた方もいたようです。
 公判前整理については、急げ急げと言いますが、そういう裁判官の感覚は理解できない。
 たまるばっかりでならば促進する必要もありますが,この形では一定たまるのは必然でしょう。集中審理は準備に力を入れてこそできるので,準備を急がせるのは理解できません。
 未決勾留長期化の不利益には保釈や長期間の未決算入もあるでしょう。
 審理については、口頭中心になり主張はかなり口頭主義,証拠調べについては予想していたのに比べて調書利用が多い。同意書面が多いかと思いますが,捜査報告書は合意書面に近づいていますが,同意書面のままでは,調書裁判から脱却できていないことになります。
 控訴については、被告人控訴は多いが,正面から認められたものはないようです。2項破棄はあって刑を変えたものはあります。示談できたりすると,量刑不当争いになります。
 量刑不当の検察官控訴はないので,かなり我慢しているのではないでしょうか。しかし無罪になったのは我慢できない,7月の2件の控訴は,そういうことでしょう。
 田岡さんと分析ちがうところで,前科を立証につかえなかったのは不満の原因になるでしょう。確定すると今後の影響が大きい。危ない,高裁からすると破棄しやすい,前科の法律的関連性,それは裁判員ではなく裁判官が判断するべきと主張します。前科についての判例になるかもしれない。裁判員裁判だから厳しく考えなければならない,前科の証明力を過大に考慮する必要があると考えているのでしょうか。
 見直し論ですが、大きな変更は難しいのではないでしょうか。「どうしようもない」ことにはなっていないでしょう。一部の方は「廃止せよ」というでしょうが,説得論はないだろうと思います。適用範囲については議論されにくいでしょう。性犯罪とかはありうるかもしれません。裁判員の守秘義務が重すぎるとおもいますが,どこまで課すか。義務を解除することにはならないが,学術研究目的の開示は認めてほしいです。評議について科学的検証ができるように。このままでは根拠にもとづいた研究ができない。団でも意見が出ていますが開示証拠の扱いについて廃止論もあるが,「法廷で調べた後は目的外使用できる」とかやって広げていくことでしょうか。そこでも学術研究目的の開示は認めてほしいものです。

 お二人のコメントを踏まえ、08年10月意見書を基礎に、見直しについて以下に取り組むかを議論しました。

@公判前整理についての諸問題
 従前の話と違い、制限を課してきている、非公開の実態や訴訟指揮,不当な限定について公開してゆく必要があるとの意見に対し、公開で予断が与えられるのではないか、むしろ裁判官に予断を与えるチャンスとして活用できるのでは、との反論があった。また、公開についてはそこで忌避や異議などで争って突破して来たところから実現を期待する声もあった。
 実際に取り組んだ経験で、責任能力が問題になりうる事案で鑑定請求があっさり通った,検察が簡易鑑定を任意開示で出してきた。これは簡易鑑定がないと,裁判員裁判が中断されるとこまるからだと思われる。正式鑑定があるとき公判前に再鑑定はないだろう。任意開示で満足している弁護人がいるが,必要名もの出ているのかチェックすべき。安易に納得せず要求すると争われるといやなので出してくる。
 裁判員制度は公判前整理はさけがたい制度と理解しているので相当な時間が保障されないといけない,身柄拘束を解くべきであろう。
 また、公開が無理な現状では不十分な中でもあとから出てきた証拠については原則出せるようにすべきではないかとの意見に対し、主張立証制限の問題で,防御が制限された実態や弊害があったのかの実態を確認すべきであるが、検察にとっても同じ問題があり,弁護人だけが制限されない結論にはなりにくい検察も分厚い立証はできなくなっていると意見があり、実質公平の点からは編面的に検察は制限を受けるとされてもいいのでは、という意見も出た。
 アリバイ証拠の扱いについても、義務づけられると予定主張に入れねばならず手の内が明かされるが、求釈明して固めるなどの工夫が必要である。
 弾劾的証拠をどこまで出すかは、内容が予測ができない,法廷でどんな発言が出るか,反対尋問の実効性確保をどこまで保証できるか、一方事前に出すと手の内を明かすことになる。補充立証が裁判員ではできないという感覚,真実発見に反すると裁判官が思うので厳しい。公判前で出ていれば検察が反証できることになる。
 証拠の目的外使用の問題では、必要とする関係者は確定記録取り寄せや民事の文書提出命令で足りるのではという意見が出たところ、因果関係否定するような証拠不同意がされたという反論が出され、条文通りだと提出どころか準備にさえ使えないことになってしまうとの指摘もあった。一方、堀越事件で高裁では開示はされたが証拠調べ請求却下された、全弁護人は誓約書を作成させられた、との報告もあった。
 証拠の絞りの問題で、裁判官事件でも全記録は25センチあるが公判証拠に2センチくらいしか出てこない実例があり、裁判員裁判が始まったことによって裁判官裁判も変わりつつあるのではないか、前科ないとか普通に言ってきたのか通じなくなってきたのではないかという経験に基づく報告があった。この点は何が変わって、何が変わっていないのか検証する必要がある。
 身柄拘束の問題で、裁判員裁判は公判前整理手続から長期化することが通常であるから保釈されないと大変だが,保釈率は75%。争う事件で保釈はほとんどない。
 刑事司法改革にどうつなげるか、について、裁判所のスケジュール進行への異常な配慮で審議での議論が十分になされていない可能性があること、裁判員への漠然とした守秘義務の問題など改善の議論に弊害となる。記者会見でも職員がいるので良かったという話しか出てこない。マスコミが追跡してきくと,批判的な話があったり,記者会見ではいえないこと話したりする。直後の話できけないことをどう拾っていくかが大事弁護士会,団意見書,救援会,民主党意見書,社民党・共産党意見書それぞれいろいろ言っているが、大体同じこと言っている。立法的に解決することができるのではないか。少なくとも問題点の理解は一致している。刑事事件としては今まで変わらないところが変わりうると思うと弁護人の力量がとわれる。実際にやりながらよりよくすることが大切。やるとのめりこむが責任が重い。新しく開拓していく分野で技術もさらに磨いていく必要がある。
(佐藤幹事長のまとめ)
 充実した報告ができた。4時間たっぷり時間があるかと思っていたがそうではなかった。
 良い面も出てきたと思う。リップサービスで終わらせない,良きものは続け,改善すべきは改善させるという態度で臨みたい。この成果を本部に伝えていくつもりである。

 
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